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恋のキューピットも忙しい。

憤慨した様子で天幕を後にする女を隠れて見送った青年はその後に続く人間がいないことをしばらく確認して、ニンマリと笑った。


薄暗さを徐々に増す駐屯地の片隅で、明るい赤毛が風に靡く。


「いや~、俺ってば優秀な副官だこと。や、恋のキューピットかな?ね?カレンちゃん」

「ふん、ただの案内役だろう?」


ーーしかもその前に監視対象からうっかり目を離した挙げ句火事騒ぎに誘拐騒ぎ?それで優秀か?


近くの天幕の陰から姿を表した女性騎士に鼻で笑われて、赤毛の青年ーーカルロは口元の笑みをしまって目を反らした。

ボリボリと頭を掻きながら「誘拐はともかく火事騒ぎは俺の不手際だけでもないんだけどね」と苦笑する。


何か仕出かすと事前に情報があった人間にむざむざさせてしまったことは確かではあり、不手際と言われれば言い訳のしようもないのだけれど。


「けどあれは王国側の失態でしょ。問題児寄越すんならちゃんと見張っといてもらわないと。っていうか軟禁してるんじゃなかったっけ?」


ウェルダール砦からはそう連絡があったはずだ。

遅くとも数日中に交渉が締結する。

そんな中馬鹿な真似を仕出かされては迷惑というわけで、砦に到着するなり軟禁していると砦側の将校から連絡があったのは僅か2日ほど前。


「どこにでも馬鹿の二人や三人はいる。半端な血筋だけで出世の芽がない貴族の一部が手引きしたらしい。あれでも王子だからな。媚びを売って上手くいけばあるいは、ということらしいよ」

「ふぅん。ヤダね、馬鹿は」


出世どころか軍紀違反の上に自軍にも損害を与えまくっている。

 

火はすぐに消火されて森の一部が燃えたのみ。

だが火をつけた場所が悪い。

というか最悪だった。


よりによって流行り病の特効薬になる薬草の群生地を燃やしたのだから。


「いや、狙って行ったらしいよ?薬が手に入らなくなったらこちらに損害を与えられると思ったらしい。自分たちの薬がどこから手に入れているものか知らないし考えもしなかったんだろうね」


そう言ってカレンティアは手に持った報告書をヒラヒラと風に靡かせる。


帝国側の薬は予備がある。

この先病人が多少増えても何とかなる。

だが、王国側は。


「せっかく人が分けてあげてたのにな」


件の薬草はどこにでも生えているものではない。

日の当たらない森の奥、水捌けの悪い湿地帯にのみ生息する。


探せば見つけられるだろうし、自国である以上当然情報は集まりやすい。


ただ致死性の流行り病である以上時間はさほどなく、目の前にそれはある。

敵陣のすぐ真横であり、実質の占領下であっても。


一応の停戦中であり、せっかくだから恩を売っておけという国の判断もあって、現在砦側の薬に使われる薬草は帝国側がわざわざ採らせてやったものだ。


もちろん砦側もある程度の予備はあるだろうし自営で群生地を確保もしているだろう。

今すぐに必要としているすべての人間に行き渡るかはともかくとして。


目の前の自分たちが助かるための薬の材料を燃やされた兵士たちの心情は如何なるものか。


「……で?カレンちゃんがここに来たってことは見つかった?」


馬鹿たち。とカルロは声を潜めて問う。


「見つかったというか、砦側で捕らわれて引き渡されたが正解だな。どうする?」


チラリと天幕に向けられた視線にカルロは「ノンノン」と指を立てた。


「我らが閣下は今大事なご用の真っ最中ですから。恋のキューピットたるこの俺が代わりにお仕事しますよ。ああ他にも仕事は溜まってるんだけどねぇ。

忙しいったら」

「ふん。それと王国から例の報告が上がってきてる。ーーメリッサ・ドウァン伯爵令嬢についての、な」


了解、と笑ってカルロは踵を返した。


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