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心の行方。

「……ん」


身じろぎをしてうっすらと瞼を開くと、目の前に鍛えられた胸があった。

鼻先にある素肌にドキリと鼓動が高鳴る。

 

そっと頭を動かして状況を確認するなりかあっ、と恥ずかしさに身悶えしたくなった。


メリッサはクロイス様ーーいやクロイスの腕に抱え込まれるようにして眠っていたから。


(……どうしよう)


動けない。

少しでも動けば彼を起こしてしまうだろう。


けれどこのまま寝直すというのも存外難しく。

あまりにもドキドキし過ぎて目はすっかり覚めてしまっている。

目が覚めてしまっているのに動かずじっとしているというのはなかなかにキツい。

ましてこんなにも密着した状態では。


動けないと思うほど何故か身体は動きを欲してうずうずムズムズする。


一人、腕の中であわあわしていると。



「……クッ」


と押し殺し切れなかったらしい笑い声が耳についてメリッサは恐る恐る顔を上げた。


すると笑みの形に歪められた唇がタイミングを計ったように下りて来て。


背に回されていた手がメリッサのうなじから顎に回され、長い指に顎が固定される。


「……んっ」


噛みつくように口づけられて、僅かに離れて息継ぎをした隙間にまた重ねられ、差し込まれた舌に口内を嬲られる。


「ん、はっ……ぁ」


慣れない口づけに上手く息ができなくて、頭がぼんやりした。


「クロイス、さま……」

「違う」

「……っ!」

「二人の時は様はいらない。言っただろう?」

「クロイス」


名を呼んだだけで、胸が熱くなる。


最後まで、すべてを奪われるのだと思っていた。

それを望んでしまっている自身を自覚もしていた。


けれどクロイスがしたことはメリッサに快楽を教えただけで。


「手加減出来そうにない」


のだそうで。


けれど、すでにクロイスのすることはどれもこれもメリッサには刺激が強過ぎて。


頭も身体もくらくらしてすっかり酸欠状態だった。


(……私)


恋というのはもっとゆっくりと育っていくものだと思っていた。

色んな話をして、少しずつ距離を縮めて。


こんな風に出会ってすぐにお互いのことを深く知らないままいつの間にか惹かれてしまうものだとは知らなかった。


ろくに話しも、していない。


実際彼の何を知ってもいない。

知っているのは帝国の公爵であること。

魔王と呼ばれる人であること。


あとは何を知っているだろうか。


性格は?


正直掴み切れない。

そういえば年齢も知らない。

見た目は20台後半といったところだけれども。


基本無表情で、でも笑い上戸らしいところもあって、時々とても穏やかに笑みを浮かべる人。


(私、この男ひとのこと)


ーー好きみたい。


(ああ、認めてしまったわ)


認めてしまったら、きっとつらくなるのに。


(とても、つらくなるのに)


この恋には先がない。


(私は、あなたとは一緒にいられない)



メリッサはぎゅっと背に腕を回し自分からその胸にしがみつく。


それでも。

もう少し。

もう少しだけ。

 

そっと唇を寄せて啄むようにキスをした。


もう少しだけ、夢を見させて下さい。


ーー神様。


そう、胸の奥で祈った。



あと、少しだけ。


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