魔力調律。
「……や、クロイス、様っ」
思いも寄らぬほど甘い自分の声に、メリッサは驚きと羞恥に唇を両手で塞ぐ。
「メリッサ」
そのことに気づき、クロイス様が身を起こすのに、メリッサはいやいやするように首を振った。
「……ど、して?」
自分でも何を言いたいのか、聞きたいのか、わからないまま疑問を口にする。
「あの、女性ひとは……」
喘ぐように紡がれた言葉に、クロイス様の眉がしかめられる。
「どこから見ていた?」
「……え?」
俄かに不機嫌丸出しで見下ろしてくるキレイな顔に、メリッサは戸惑ってしまう。
「……どこって、それは、その」
ーーキスをしていたあたりから。
目を伏せて、ぼそぼそとメリッサは答えた。
「あの方は、その……」
恋人なのですか?と続いたメリッサに、ますます眉は歪み、眉間に皺は寄る。
「見ていたんじゃないのか?」
「見て、は、いましたけど、その……」
目に入っていただけで、ほとんど覚えていない。
気がつけば女性は上着を羽織った姿で出て行くところだった。
「追い出してただろう!」
「そう、なのですか?」
激しい物言いに、メリッサは目をパチクリさせた。
そうだっだろうか。
見ていたはずなのだれど。
はて、と一瞬自分の状況も忘れて小首を傾げる。
「何を見ていたんだ。そもそもこの状況で言うか」
舌打ちされて、メリッサはうぐ、と身を竦めた。
ついでに自分の状況も思い出してしまい、耳まで赤く染める。
「あの女は調律にカルロが寄越した。ーー確かに多少迫られて相手もしたが、その気にならなかったからすぐに追い出した」
「そう、なのですか?」
とても美しく、しかも色っぽい女性だったと思うのだけれど。
メリッサは知らず先とまったく同じ言葉を返してから、少なくとも私よりもずっと胸があったわよね?なんてことを思い返してしまう。
「……まったく」
またも舌打ちされて、「カシムに言ったことを覚えているか?」そう聞かれた。
「カシムに?」
「魔力調律のことだ」
それはいつも行っている膝枕のことではないのか。
確か、相性の良い魔力の相手に触れていることで、魔力の調律を行うのでは?
「帝国では調律を行う者はほとんどが妻や恋人になる」
言いながら首筋に触れた唇に「ひゃんっ」と妙な声が出た。
「それは一番効果のある方法がこうして相手と身体と魔力を染め合うことだからだ。特に魔力のバランスが崩れている時はこっちも我慢が効かない。ーーだから帰れと言ったのにな」
間近に見上げるアイスブルーの瞳に心臓がどうしようもなく高まる。
「せっかく人がまだ待つつもりでいたのに帰らなかったのはそっちだからな。さっきも言ったがもう逃がさんぞ?」
低い色香のある声で囁くと、クロイス様はニッと唇を歪めてまたメリッサの肌にキスの嵐を降らし始めた。




