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二度目のキスは。

貪るように何度も重ねた唇を離すと、女性は耳許で密やかに何かを囁いたようだった。


メリッサはただ立ち尽くしている。

逃げ出すことも、目を逸らすこともできずに。


女性の身体に隠れて、クロイス様の顔はよく見えない。けれど、それがクロイス様であることは間違えようがなくて。



女性は肩に掛かったクロイス様のシャツに手をかける。


ここにいてはいけない。

気付かれてしまう前に早く離れなくては。


そう頭ではわかっているのに身体は動かない。



ふいに、女性の手が払われた。

女性が軽く仰け反るようになって、そのためにクロイス様の顔がほんのわずか、覗く。


その瞳がとても冷たく見えて、ドキリと鼓動が跳ねた。


たった今濃厚な口づけをしていた相手に対して、なんら感情の動いていないような瞳。

凍りついたメリッサを置き去りに、暫し時が過ぎ。


「……きゃっ!」


すぐ身近に声がして、メリッサは目を見開く。


目の前に、女性がいた。

いつの間にかフード付きの上着を薄物の上に羽織って、天幕を出ていこうとしていたようだ。


女性の声にこちらを見たクロイス様の目がメリッサを見つけて驚愕を浮かべる。

その顔色は酷く悪い。


それを目にして、メリッサはふと思った。 

行為に夢中な故にメリッサの存在に気付かなかったのだと思ったけれど、そうではなく普段なら当然気付くはずの人の気配にも気づけないほど、体調が悪いのではないかと。


女性がメリッサを罵って身体をぶつけるようにして横をすり抜けていく。


残されたメリッサはまだ立ち尽くしたまま。



「……そんな所で何をしている?」


ややしてかけられた声音は剣呑な響きで、メリッサはびくりと身を竦ませた。


「今夜は必要ないと伝言を残したはずだが」


聞いたことのないほど冷たく低い声に、臓腑が冷える気がした。


同時に「必要ない」という言葉に、ギュッと胸を鷲掴みされたように感じる。


頭の隅では、このような言葉をかけられても仕方がない。とも思う。


メリッサは勝手に天幕まで押しかけた挙げ句女性との情事を、覗いていたのだから。


軽蔑されても当然。


「……聞いてません」 


ごめんなさい。

そう謝って、今すぐ出て行くべきなのに。 

唇からこぼれたのはそんな言葉で。


「必要ないだなんて、聞いてません」


俯いて、勝手にこぼれ出す言葉を吐き出す。


はあ、という嘆息と共に足音が近づいてくる。


「では今言おう。今日は膝枕は必要ない。帰れ」

「や……っです」


苦しい。

苦しい。  

苦しくて堪らない。

どうしてこんなに胸が痛いのか。

どうしてこんなに苦しいのか。


「……顔色、悪いじゃないですか」

「メリッサ」


バカなことをしている。

そんなことはわかっているのに。


ぐちゃぐちゃで。


自分でも何がしたいのかよくわからない。

わからないけれど。


「帰れ」

「……やっ!」


耳を手で塞いで、うずくまった。

その手を捕られて、引き寄せられる。


「馬鹿がっ」 


苦々しげな囁きと共に抱き締められ、熱っぽい視線に晒される。

確かに感じられる瞳の中の熱に、じんと頬が熱くなる。


重ねられた唇は荒々しくて、呼気は熱い。


「もう、逃がしてやらんぞ」


そんな囁きを耳許に落として、メリッサを抱き上げる逞しい身体。


ゆっくりとベッドに下ろされると、軽く耳たぶを噛んでから、また唇が寄せられる。


一筋涙が零れ落ちて、それを拭う指の感触を頬に感じながら、メリッサは目を閉じた。

 

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