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家族にも捨てられるようです。

『妹殺し』


そんな罪を被せられたメリッサはパーティーの会場から自室へと一人戻された。

今頃メリッサの誕生日パーティーであり結婚式の日取りを発表する場であったはずの集いはヘルト王子とマリエラ、その二人の新たな婚約発表の場に塗り代わっているはずだ。


メリッサはペタンと絨毯の上に座り込み、ボンヤリとカーテンの開いた窓から庭の木々の隙間から覗く夜空を見上げる。


涙は出なかった。


心のなかはズタズタに引き裂かれ、喉が嗄れるまで悲鳴を上げたいと訴えているようだったけれど。


(……どうして?)


私の何がいけなかったのだろう。とメリッサは思う。


自分の何があの二人にあそこまでさせたのだろうかと。


単純に邪魔だった?


マリエラと婚約するために。

婚約者であるメリッサが邪魔だったのだろうか。


けれど、それだけでメリッサをこうまで追い詰める必要があっただろうか。


お父様も義母様もメリッサのことは疎んじている。

その逆にマリエラのことはすごく可愛がっていたし、二人が懸命にお願いしたら適当な理由を付けてメリッサとの婚約は破棄し、マリエラと婚約を進めることは可能だったはず。


そもそも家同士を近付けるための婚約だったのだから。


姉でも妹でも、ドヴァン家の娘ならばどちらでも良かったはずだ。


ドヴァン伯爵家は爵位こそ伯爵だが、その歴史は建国時にも遡る由緒正しき血筋。

そしてとある理由からこの数年資産を数倍にも増やしている。


その手腕に目をつけた王宮から打診された婚約だったけれど、メリッサが選ばれたのはただ亡くなった母がマリエラの母である義母よりも出自が少し高かったというだけ。




「なんだか近頃眠りが浅いの」


そう言うマリエラによく眠れるようにと茶葉を贈った。

庭で手ずから育てた薬草を混ぜ、メリッサ自身の手で作った茶葉。


「嬉しいわ。ありがとうお姉様!」


そう言っていたのに。


「お姉様に頂いたお茶を飲むとすごくよく眠れるわ。昨夜も朝までぐっすりよ」


そう笑っていたのに。




ラズベラという花がある。

赤い小さな花が咲いて可愛らしい見た目の花だが球根には毒がある。

だが花と葉の部分は乾燥させて火で炙るとその煙には心身をリラックスさせる効果があり、毒である球根もまた少量を乾燥させて煎じたものには呼吸を楽にして筋肉の緊張をほぐす効果がある。


メリッサが贈った茶葉にはそのラズベラの球根を煎じたものが入っていた。

もちろん少量である。


だが王子はラズベラの球根が入っていた。

その一点のみを強調して、メリッサがマリエラを徐々に弱らせて殺そうとした、と断じた。


薬師に茶葉を調べさせたのなら、少量であることも、その効果もわかったはずなのに。


「……なんということだ。メリッサ!お前を勘当する!今夜だけはこの家にいさせてやる。だが明日の朝には出ていくのだ!いいな!」


慟哭と落胆と怒りの入り雑じったお父様の声。


「違う……っ」


違うのお父様。誤解なの。

そう言いかけたメリッサの頬をお父様の怒りに満ちた手が叩く。


よろけたメリッサの耳に聞こえてくる声。


「ごめんなさい、お姉様。私、あまりにも効果があるものだから逆に怖くなって……。変な苦味もあるし、でもお姉様に頂いたものだから飲まなくちゃって。どうしようって迷って、ヘルト様にご相談したの。それがまさかこんなことになるなんて」


言い訳めいたマリエラの言葉はメリッサの耳には半分も入ってこない。


ただただ目を伏せて立ち尽くすメリッサの腕を邸の使用人たちが二人がかりで掴む。

そのまま引き摺られて、メリッサは会場から自室へと戻された。


会場を出る直前のメリッサの耳に、微かにお父様が客人たちに謝罪する声と、ヘルトとメリッサの婚約破棄を認める言葉と、ヘルトとマリエラの婚約を認める言葉が遠く聞こえた。

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