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往診?

眼を覚ました男性に手伝いをしていた臨時診療所の天幕まで送ってもらった。


その間、小一時間。


ただ膝枕をして、その後すぐに送ってもらった。


ーーそれだけ。


だけど。


(……そりゃこうなるわよね)


いきなりカシムを置き去りにしてどこかに消えたまま小一時間戻って来ないわ、ようやく戻ってきたかと思えば見るからに官位の高い軍服の男性に伴われているのだから。


(ええ、そりゃそうでしょうよ)


わかっている。

メリッサが悪い。

確かにメリッサが悪いのだ。


カシムにもネスタやサリフにも散々心配をかけたのだから、怒られるとか睨まれるとかは仕方ないと思う。



メリッサは臨時診療所である天幕の脇で、四人の男性(一人は男の子だけれど)に囲まれている。


カシムにネスタにサリフ。

そして何故かメリッサを送ってきてくれた男性。


そういえば名前を聞いていない、とメリッサは今更ながら思い出したが、今はそれどころではない。


(……あぁ)


勘弁してほしいわ。

とメリッサはこっそり息をついた。


カシムはふて腐れた顔を。

ネスタとサリフはメリッサと男性を交互に見てはニヤニヤ。が、サリフは男性と目が合いそうになると畏まるように身を縮こませる。


もう一人はというと無表情。


(そもそも貴方のせいでもあるんですけどね)


小一時間も膝枕をさせられていなければ今こうして囲まれて尋問を受ける必要はなかったのだから。




「……で?食い物を取りに行ったはずが今までどこをほっつき歩いてたんだって?」


一名を除いて皆それぞれを窺い合っていたなか、口火を開いたのはネスタだった。


「……それは、その」


一応メリッサはここに戻るまでの道中言い訳を考えてはいたのだ。が、何もこれといったものが見つからないままここに至っている。


「往診に」


応えたのはメリッサではなくその隣に無表情に立っている男性だった。


「私の体調不良に気付いて声をかけられたのでそのまま治療をお願いしていた。連れの方々にはご心配とご迷惑をおかけして申し訳ない」


キッチリ45度の角度にお辞儀をした男性に、カシムはきょとんと、ネスタとサリフの大人二人は目に見えて動揺する。


特に男性の正体を知っているらしいサリフの動揺は凄まじかった。


「とと、とんでもねぇです!!どうか頭を上げて下さい!!!」


ひぃっ!と比喩でなく本当に飛び上がって、わたわたと手を振り回す。


「閣下に頭を下げさせたなんて知れたら、どんなことになるか……」


ぼそりと続けた言葉には、隠しきれない恐怖。


(閣下?)


その呼称にメリッサは思わず隣で頭を下げた端正な横顔を見上げた。

ネスタもまたギョッとした顔でサリフを窺う。

サリフは気まずげに目を反らして小さく頷いてみせた。


がそんな大人たちと違い、子供は閣下を気にしなかった。というか閣下がどういう人間に付けられる呼称か、をそもそも知らないのかも知れない。


「治療って薬箱も持たずに?」


嘘臭い、と言いたげな口調に頭を上げた男性は僅かに口角を歪めて苦笑してみせた。


「治療といっても普通のものとは少し違う。魔力調律というものをしてもらったのだ」

「魔力?何?」

「魔力が不安定になると身体の調子を崩す原因になる。それを別の者の魔力に触れさせることで、調節する」

「ふぅん?」


よくわからないとカシムは首を傾げる。


「魔女のいない王国では聞かないだろうな」


確かにメリッサも平民よりは多く魔力を持つし、魔法も少しは学んでいるが、そのようなことは聞いたことがなかった。


「メリッサ嬢の魔力は私のものととても相性が良いから、ここに来る間は毎日治療してもらうことになった。なので明日からもことでの手伝いが終わった後にしばらく借りることになる」

「んー、メリッサがいいなら別にいいけど」


カシムの目線に合わせて背を落とす様子にメリッサは驚く。平民の子供相手にちゃんと視線を合わせるなんて帝国の貴族は皆このようなのだろうか。


(私の知っている王国の貴族なんて、思いっきり上から目線でやたら偉ぶってるのに)


そんな風に思ってから、セリフの中身にん?と気づく。


「あ、あのちょっと……」


これから毎日とはいったい?


「私、そんなこと!」

「明日もさっきの天幕に来い。ーーそうしたら駐屯地をウロついていたことは目を瞑ってやる。この小僧の態度もな」


周囲に聞こえないよう顔を寄せて耳打ちされた言葉に、メリッサは唇を噛む。


「……そんなの、まるで脅しだわ」

「まるで、じゃない。脅しなんだよ。俺が問題にしたらどうなるか、わかるな?」


唇が触れ合いそうなほど顔を寄せて囁やかれて、ふっ、と息が頬を撫でる。


「ああ、それから」


とわざとらしい笑みを浮かべながらメリッサから身を離し、


「名乗るのを忘れていた。私の名はクロイス・ヘルトバルト。ーー王国の人間には魔王ヘルトバルトと言った方がわかりやすいか?」


そう魔王を名乗った男性は、「ではまた明日、メリッサ」と、ヒラヒラと手を頭の横で振ってさっさと歩み去っていく。


その後ろ姿を茫然と見送りながらメリッサは、


「……魔王?」


と、小さく呟いた。


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