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マリエラの口癖。

「私はお姉様の味方よ」

「お姉様には私がいるから大丈夫」


口癖のように毎日言われ続けた言葉。


父にも呆れられ「いい加減にしないか」「はしたない」「周りになんと言われているのかわかっているのか」そう罵られ、顔を合わせるたびにため息をつかれるメリッサにマリエラが何度も口にした言葉。


父にも、義母にも疎まれ蔑まれたメリッサがそれでも家に居場所があると思えたのは、妹のーーマリエラのその言葉があったからだ。


メリッサが落ち込んでいる時は隣に座って慰めてくれた。

夜会や舞踏会で一人壁際に立ち尽くしていると大勢の友人たちをおいて、メリッサの元に来てあれこれと世話をやいた。


一年前。

ヘルト王子との婚約が決まった時も、不安がるメリッサに、


「大丈夫よ。お姉様ならきっといい妻になれるわ。だってとっても賢いんだもの。それにヘルト様はすごくお優しくて素敵な方だって噂よ!きっとお姉様を大事にして下さるわ」


そう言って手をとってくれた。


マリエラの手は土いじりで荒れて指先の硬くなったメリッサの手とは違い、柔らかくすべらかだった。


初めてヘルトと二人で会うという時も、緊張するメリッサの為にと、父母に頼んで一緒に来てくれた。

上手く話せないメリッサとヘルトの間に入って橋渡しをしてくれた。


何度三人で会っただろうか。


マリエラもヘルトも優しかった。

何度も三人で笑いあったはずなのに。




「いったいどういうことです!ヘルト殿下っ!」


離れた所で客人に挨拶をしていたお父様が声を上げて飛び出してくる。


「ドヴァン伯爵、聞いたとおりだ。私はメリッサとの婚約を破棄する。そしてこのマリエラと婚約したい。貴方には是非それを了承してもらいたいのだ」

「いきなりそのような……。しかもこのような場で」

「私もこのような場で突然このようなことをするのが常識知らずな真似だということはわかっている。だがこのような場でなければならなかったのだ。でなければ妹に婚約者を盗られたと思ったメリッサが余計にマリエラを害そうとするかも知れない。貴方たち夫妻の前で、そして大勢の前で、する必要があったのだ。そう、メリッサの罪は大勢の前でつまびらかにされるべきだ!」


朗々と響き渡る声で話すヘルト王子の様子はまるで演説をしているよう。


茫然と立ち尽くすメリッサの前で、ヘルト王子は懐から二つの小瓶を取り出した。


一つには乾燥した茶葉が。

一つは薄く色のついた液体が入っていた。


見覚えのあるそれにメリッサは目を見張り、ついでゆっくりとその目を伏せた。



だから気付かなかった。

目を伏せ、周りから目を背けたから。


メリッサたちを。

小瓶を掲げたヘルト王子を冷めた瞳で見つめる視線があったことに。

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