二度目の出立。
「二人とも、本当にいいの?」
メリッサはもう何度目かになる問いかけを同行する二人にする。
二人ーー御者台の窓から後頭部を覗かせるネスタとメリッサとともに荷台に座るカシムはどちらも「ああ」「もちろんだよ!ってかメリッサはおんなじこと言い過ぎ!!」とまるでこうすることが当たり前と言わんばかりに力強く頷いた。
「まあ、あれだ。薬師様の気持ちもわからんではないが、俺たちのことは気にしないでいい。開拓村だって心配だしな。情けないがそもそも長く町に止まれるほど金に余裕もないんだ」
「流行り病が広がってるってのに、食べ歩きもしてられないしね」
「なんだ。そりゃ飲み過ぎて薬師様の世話になった俺への当て付けか?」
町に入るなりネスタが選んだ適当な宿に部屋をとった三人は、ネスタは町に出て買い出しがてら情報収拾に、メリッサとカシムは宿の食堂で食事を取りながら宿の主人に流行り病のことを尋ねた。
二人がネスタを待たずに食事をしたのはネスタが酒屋で食べてくると告げて出掛けて行ったからだ。
酒屋には多くの情報が転がっている。
そのように言い訳していたが、実際にはネスタが久し振りにゆっくりと酒を飲みたいというのが本音だろう。
旅の間はずっと夜通し馬車を走らせていた日もあったし、村を出てからずっと好きな酒を飲めずにいる。その前は病後ということで禁酒を余儀なくされていたので、すでに半月以上。
ネスタは一人で馬車を操っているため、休息は合間にとるだけ。それも夜は火の番も行っているため眠れるのは明け方の短い時間。
そんなだからメリッサたちもネスタが酒屋に寄ることに否やはない。
ただ、久々の酒にはめを外しすぎなければいいが。
それだけが少し心配だ。
その心配は的中して、ネスタは宿に戻ってきた夜には厠でゲーゲー胃の中のものを逆流させ、翌朝になっても二日酔いに苦しんでいた。
メリッサの特製薬茶を飲んで昼過ぎには復活したものの、その苦さに悶絶していたのも合わせてカシムはしばらくいじり倒す気満々な様子だ。
少しばかり懲らしめておくぐらいの方が同じことを繰り返さないでいいと、カシムに唆されてわざと激苦の茶を出したメリッサは悪いことをしたと思いつつもその様子につい小さく笑ってしまう。
けれども笑っている場合でもなくて。
ネスタとメリッサにカシム、両者の得た情報を纏めると、やはり山の麓で流行りつつある病の症状はカシムたちの村を襲ったものと非常に似通っていた。
その上、この夏王国ーー特にこの辺りの山岳地帯は長雨が続き作物の出来が悪く、野兎や鼠が人里近くに頻繁に降りた姿を見られていたらしい。
餌である兎や鼠が山から降りていたのなら、それを追ってコモイタチもまた麓付近に降りてきた可能性は高い。
カシムたちの村を襲った寄生虫が、麓に広がっている流行り病の正体である可能性もまた高くなるのだ。
本来ならメリッサたちはこの町で二泊ほどしてから開拓村へ向かう予定だった。
この先にはしばらく買い出しのできるような町や村がない。なので買い出しが一番の目的ではあったが、ずっと馬車を操るネスタの休息のためでもあった。
だがもしも麓を襲う流行り病がカシムたちの村を襲ったものと同じであるなら。
メリッサはその治療法と実績を持っている。
メリッサは一人でもすぐに向かうつもりだった。
それにネスタとカシムの二人が自分たちも、と昼を食べるなり早々に馬車を出した。
メリッサは申し訳ないと思いながらも二人が共に来てくれることに深く感謝する。
わざとなのだと思う。
疲れていないはずはないのにふざけた物言いで豪快に笑うネスタ。
明るくカラカラと声を上げるカシム。
二人とともにメリッサは町を離れる。
病が広がっている山の麓へ。