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国の法。

「何故あのような騒ぎを起こしておいて婚約など許されると思うのだ……」


国王は眉間にシワを寄せて、低く呟いた。


「何故許されないのです!罪を犯したのはメリッサであってマリエラではありません!マリエラは実の姉に命を脅かされた被害者です!!マリエラはそれでも姉を、メリッサを訴えることはしないと言った。そのような心の優しい素晴らしい女性なのですよ!」


息子の台詞を聞いた途端、国王は激憤のあまり椅子を蹴立てて立ち上がり目の前の馬鹿者を殴り倒したい衝動に駆られた。


が、椅子の縁を握りしめ、衝動に耐える。


胸中では「素晴らしい女性が姉の婚約者を誘惑し、あまつさえ姉に無実の罪を着せるのか」と罵りながら。


「父上!聞いておられるのですか!」

「……ああ、聞いている。聞いているとも」

「すぐにドヴァン伯爵家への処罰を返上して下さい。そしてマリエラとの婚約を……!」

「ならん」

「何故です!」

「何故、だと?」


国王のこめかみにはくっきりと血管が浮き出ており、怒りの深さを物語っていた。


「ならば何故あのような騒ぎを起こした?よりによってあのような場で、大勢の人間がいる前で」

「メリッサが罪人だからです!父上も以前言っていたではありませんか。罪は明らかにし、裁かれなければならないと」

「……その通りだ。罪は裁かれなければいかん」


ちら、と国王の目が部屋の中の人間ーー末の息子以外の者たちに向けられた。


そこにいるのは幼い頃から実の子のようにヘルトを敬い可愛がっていたこの国の宰相に実の姉と兄。


だが姉弟二人の目には弟への愛情や哀れみは見当たらない。

むしろ醜悪なものを見るような嫌悪が宿っていた。


濃い紺の髪に白いものが混じり始めた宰相は苦渋に顔を歪めていた。

おそらくは国王自身と同じくその胸にはこのような者に育ててしまった己れへの後悔と慟哭が渦巻いていることだろう。


三人は一様に小さく頷いてみせた。

国王もそれを受けて頷いて返す。


「ドヴァン伯爵及びその家族は罪を犯した。そのため男爵位に降格とした。そして王族との婚姻は伯爵家以上の家の者と決まっている。男爵家の娘との婚約は認められん」

「罪を犯したのはメリッサ一人ではないですか!ドヴァン伯爵は迅速に正しい処罰を行いました!すぐにメリッサを勘当して、すでに家を出しています」

「正しい?どこがだ」


フン、と国王はヘルトの言を鼻で嗤う。


「コルトよ、こやつにこの国の法を教えてやれ。貴族が罪を犯した場合のな」

「はい」


と第二王子であり、王都に次ぐ都市であるケーリカの領主でもあるコルト・ケーリカ公爵は恭しく頭を垂れると、粛々とした口調で話し始める。


「我がアルバッハ王国に於いて貴族が罪を犯した場合、罪人の身は速やかに王都へ輸送されなくてはなりません。そして慎重な捜査を経た上で裁判にかけられます。たとえ親であろうと勝手な処罰は許されておりません。必ず国王、元老院、円卓議院の三者の合意によってのみ、罪は裁かれます。それを覆すことができるのは国王のみです。国王の勅命のみが裁判を不要とします」

「うむ」


国王は首肯すると、「そういうことだ」と告げる。


「しかし私は王子です!王子である私が認めたのですからそれで良いではありませんか!だいいちメリッサは訴えられてはいません!」


だから問題はないとのたまうヘルトの態度に、国王よりも先にコルトの忍耐が切れたようだった。


「……いい加減にしないか」


コルトの口から苦々しく吐き捨てられた言葉にヘルトが即座に反応する。


「黙れ!すでに王族でもない一貴族の分際で次期国王たるこの私によくもそのような口を!」


唾と共にヘルトの口から飛び出した言葉に、その場にいた全員が唖然と目を見開き顔を見合わせた。

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