弟と胆試し
興奮する心葉をすぐそこにある椅子に座らせながら、話を聞いてみる。
「さっきね。友達とこの怖い話をしてたの。それで、近くにある墓場で今度、みんなで肝試しをしようってなったんだけど。僕ね、昔から怖いの全然無理で、だからさ…お願いだよ。お姉ちゃん一緒についてきて。お母さんたちには僕が上手く言っとくからさ。ね、この通り」
上目遣いで見てくる弟の顔はうんと頷かなければ、泣いてしまうんじゃないかって思うほどうるうるしている。しかし、私の耳元ではずっと独り言をいっている奴のせいで集中力が途切れていた。
『へぇ、姉弟揃って幽霊駄目なんだね。クスクス』
「……」
『それに、姉弟揃ってお母さんが怖いんだね。お姉ちゃんってば情けないなぁ。クスクス』
「……」
我慢だ我慢。言ってる事は合ってるが言い方がとてつもなくイラッてくる。
でも、我慢だ優奈よ。今ここで怒ったら心葉に怪しまれる。そうすると、素直な弟のことだろう絶対にお母さんにばれる。そしたら、あの普段はとてつもなく怖いお母さんでも心配してくる。それもしつこいくらいにだ。そこで、変に返してしまえば、一週間後に出掛けることもできない。だから、だから、あと少しの辛抱。頑張れ、短気は損気、怒ったら負けだ。
「……ねぇ、ダメかな?」
「ううん。良いよ。お母さんには私からもちゃんと話すから」
「ホント!やった、お姉ちゃん大好き!」
「えへへ、ありがとう」
ぱぁっと顔を明るくして心葉は抱きついてきた。大好きだなんて姉としてメチャクチャ嬉しい。
「じゃあ、僕そろそろ帰るからまた後でね」
「うん。気を付けてね」
失礼しました。と言いながら出ていく心葉を見て私は隣がやけに静かなのに気がついた。
「…どうしたの?」
『……ブラコン』
「なっ!?」
ぼそっと呟かれた言葉は一瞬で私の顔を赤くするには充分だった。
「な、何言ってんの!」
『だって、だってそうじゃん。お姉ちゃん大好き!て言われて顔がにやけてんだもん』
「そんなの誰だって、大好きって言われたら嬉しいに決まってんじゃん!それだけで決めつけないでよ!」
お互い、言い合っていると後ろからポンっと頭に手が乗せられた。
「『?』」
二人して、そちらを向くと先生が呆れた顔をして立っていた。
「お前ら、ここは保健室だ。寝ている奴もいるんだから静かにしろ」
「『え、先生がそれ言うの?』」
ふたりでハモッて言うと先生は先程の事を思い出したのか、しばらく黙ってから言った。
「何の事だ?」
(あ、ひでぇ。知らぬ顔する気だ)
こういうときは言っても無駄だと思い、何も言わずにスルーする。
そして、スルーするためにソノラの方へと向く。
「ねぇ、ソノラ。胆試し一緒に来てくれる?」
『うーん…良いよ。その代わり、その間はずっと一緒にいてね?』
「……なんで?」
意味がわからず首をかしげる。何故、胆試し中ずっと一緒に居なければならないのか。
そんな私を見てソノラは教えてくれた。
『僕はここに縛られてるから本当なら離れられないんだ。学校内は良いけど外に出ようとすると、見えない壁にぶつかるんだよ。でも、ユウナの鏡があれば大丈夫。そこから離れると壁にぶつかるけど』
「へぇ。本当にすごいね。この鏡」
制服の内側にある鏡のついたペンダントの方を見る。もちろん、見えるわけ無いのだが。
「ちょっと二人とも、無視しないでよ!」
私たちの会話を中断して入ってきた先生。
私たちは笑顔で言った。
「『あ、先生。居たんですか?』」
「……なぁ。俺の扱い段々酷くなってきてないか?」
「気のせいでは」
「いや、気のせいではな…」
『気のせいじゃない』
「だから、気のせいではない…」
「『気のせいだよ』」
「…ああ、うん。気のせいだな。気のせい気のせい」
先生に言われても笑顔で押しきる私たちに先生も折れたらしい。押しに弱いなぁ先生は、私も人の事言えないけど。
「……よし、私もそろそろ帰ろうかな」
「そうだな。そろそろ5時になる。まだまだ日も短いから気を付けてけよ」
私が帰る準備をしていると、視界の端で何か動いたような気がしたのだがそちらを見ても何もおらず。私は黒くて、1匹見つかると30匹はいると言われているアレかなと思い。帰る準備を再開した。
「じゃあ、また明日」
『バイバーイ!』
ソノラと別れて昇降口へと出る。
段々と暗くなってきている空を見て、早く帰ろと思いながら外に出ると、空にはカラスの群れがいて、近くには黒猫がいた。その光景がどこか不吉な予感がして、思わずペンダントのところを握っていた私だった。
姉弟そろって怖いのがダメで、実際どちらも胆試し嫌だなぁと思ってます。
そして、段々と扱いが酷くなっていく翔太。まだ7話目なのに…。ごめんよ翔太。
次は、胆試し対策を姉弟で考えます。