七不思議 其の二
「それじゃあ教えよう。蒼月学園七不思議を――」
いつにも増して真面目で壮大に言う先生の姿に思わず緊張してしまう。
そして、じっくりと間をおいた後、先生は息を吸う。
「なーんて、言うとでも思ったか。大体、俺だって知らない」
『「ひどっ!」』
そんだけ溜めた結果がそれだなんて、思わずソノラとハモってしまった。
先生はてへっと下を出す。全然可愛くなんてない。
「先生、知らなかったんですか?私、てっきりとても詳しいのかと思ってました」
「ここに来た頃は俺も探していたんだけどな。最後の1つだけ見つからなかった」
「へぇ」
どうやら先生はここの生徒だったらしい。その頃は七不思議の噂も全生徒が知るほど有名で何人もの生徒が泣かされたらしい。
へぇと思っている私にソノラは私の頬を挟んでこちらを向けさせる。きょとんとしている私にニコッと笑う。
『ち・な・み・に・僕は七不思議の5番目なんだよ!』
「え!?そうだったの!」
『えへへ~』
驚きだ。この超明るいアヤカシは七不思議の5番目と言われて一部の生徒に恐れられていたのだ。確かに、鏡を操って殺そうとしてきたときは怖かった。
でも、普段はめっちゃ明るいし、お姫様だっことか普通にしちゃうし、しかも無自覚だし、こちらは疲れるし、やはり七不思議と言われてもピンとこない。
「七不思議5番目家庭科室の鏡さん。真夜中の12時丁度、5階家庭科室にある鏡には昔ここの生徒だったという幽霊が現れるという。もし、鏡の中を覗き込んでしまうと、その身を切り裂かれ鏡の世界へつれていかれてしまうと言われている。なんでも、とある男子生徒が家庭科の先生に恋していたそうだ。しかし、先生は事故で死んでしまい男子生徒は悲しみ、先生を追いかけるようにして自殺した。この鏡はその男子生徒と先生との思いでの品…という噂だ」
うわっ、重っ。
事故で好きな人が死んだら確かに悲しいけど、そこで死ぬのはちょっと。私、身近に事故や自殺で死んだ人居なかったから、そういう理由で死ぬ人漫画やテレビでしか見たことなかったよ。そんなに生徒の事が好きだったのかな。
つい、ソノラの方を見れば、目があってしまった。ギクッとする私に対し、ソノラはニヤリと笑った。
『あれ?もしかしてユウナったら焼きもちやいてる?』
「何でそうなるの!そんなことないからっ!」
私がなぜ家庭科の先生に焼きもちを焼かなくてはならないのだ。そんなことあり得ないのに。
『またまた、照れなくてもいいのに。ま、僕は何にも覚えて無いんだけどね。家庭科の先生の顔なんてさっぱりだよ』
「え、そうなの?」
『もう、ユウナったらホッとしちゃって、昔の先生がどんだけきれいな人だったかは気になるけど、僕はユウナが好きなんだから安心して』
「か、からかわないでよ!」
ソノラが私を好きだとかもっとあり得ない。だって、会ったの昨日だし好きになる要素なんてないし。
「あー、お二人さん。いちゃつくのは俺の居ないところにしてくれ。時間もないし、話を戻すぞ」
『翔太はね、彼女いない歴=年齢なの』
「おい、そこ。聞こえてるぞ」
『だって聞こえるようにいったんだもん』
「お前なぁ」
再び始まる先生とソノラのケンカ。ケンカするほど仲が良いと言うのはこういうのなのだろうか。
「二人とも、ストップ。ケンカは私の居ないときにして」
「うっ…すまん。つい」
『…はーい。ゴメンナサーイ』
先生は素直に謝ったけど、ソノラは絶対に反省してない。口先だけだ。顔が笑っているのだから。じろりと睨むとむぅと口をへの字にして「ごめんなさい」と言った。腑に落ちない謝りかただがこれ以上言うのもめんどくさい。もういいや。
「とにかく、七不思議を探すというのなら俺が少しずつ教えてやる。そうだな、6番目の奴でいいか。七不思議6番目理科室の人体模型。結構有名なはずだし、お前もわかるだろ?夜中に動き出す人体模型の霊だ。捕まったら最後、体の臓器を捕られるとか捕られないとか……何かあったら困るからこいつも連れていっとけ」
『ドーンと任せてよ』
ソノラは胸に手を当てて、えっへん。
頼れるというか頼りないというか。微妙な感じだ。
「先生、学校にはどうやって忍び込めば良いですか?」
前回は先生に入れさせてもらったのだ。他の先生ではどうしようもない。
「お前、こいつの鏡の道通ったことあるか?」
「鏡の道?」
『昨日。学校から家に帰るときに通ったでしょ』
「ああ、あのすごい道のこと」
あれは凄かった。
しばらく暗い道だったのに足元に青い光が見えて、周りを見れば小さな鏡の破片が浮いていた。青い光に反射してキラキラ光る様子はなんとも幻想的で、思わず見いってしまうほどに。
更にその1つ1つには学校や図書館、誰かの家と思われる場所に繋がっていてすごいとしか言えなかった。
「あれを通れば何処へでも行けそうだね」
『そうそう。例え夜中の学校だろうと行けるもの』
「まぁ、先生としては止めなきゃいけないところなんだが、1回見送っちゃったし、今更だ。鏡の道を通って行ってこい。ただし、何かあったとき俺は責任をとらん」
学校の先生としてどうなんですか。
にしても、鏡の道すごいな。万能だ。
『僕が夜迎えに行ってあげるから、10時ぐらいに家の中で一番大きな鏡の前で待っててよ』
「え、でもソノラは私の家なんて知らないでしょ。どうやって来るの?」
『その鏡の気配を辿ってくんだよ。それは元々僕の物だったし。例えば君が誰かにさらわれて、何処にいようと僕はその鏡の所へ行くだけ。絶対に君を見つけられる。だから、君は安心して鏡の前に居れば良いんだよ』
そう言って指差したのは昨日貰ったペンダント。
すごいな。鏡の道もこの鏡も。
『それじゃあ、今日の夜に……』
「待って。昨日家に帰らなくてメチャクチャ怒られたの。だから、しばらくは無理。それに、私は眠い」
朝。昨日から姿が見られない自分が部屋にいるとは誰も思っておらず、家族のみんなから怒られたのだ。いや、当たり前なんだけど。
それに、昨日から一睡もしていない私は眠くてしょうがない。授業中の辛さ半端なかった。それが二日も続くのはマジ勘弁してほしい。
「そういや、今日の当番は椎野先生だったな。見つかればとても怒られるから今日行くのはやめといた方がいいと思う」
『そっかぁ。それは残念』
わざとらしく、大袈裟にがっかりするソノラ。
「まぁ、一週間後くらいに行こっか。それまでに私も夜に出掛けられるように準備しとくよ」
『じゃあ、一週間後の夜10時ぐらいに迎えに行くね』
バイバーイと言って去ろうとしたソノラに私も手を振ろうとしたそのとき。
「お姉ちゃーん!!」
「ぐぇっ!」
いきなり保健室に入ってきた子供が私の腰にガシッと抱きついてきた。不意打ちの衝撃に思わず変な声が出る。
去ろうとしていたソノラも『大丈夫?』と慌てて私の元へ戻ってくる。
ジンジンする腰に目を向けると、私にギューッとしがみついているのは男の子。
しかし、そいつは私の弟であった。
「心葉!?どうしたの急に」
「お姉ちゃん。お願い、助けて!」
目にいっぱい涙を貯めて言った言葉にその場にいたみんなが頭の上に?を浮かべた。
「「『……は?』」」
なんとも重い理由で死んだソノラ。
初めて聞いたときは先生もドン引きでした。なので、優奈を見てやっぱりかと思ってます。
優奈は心葉の登場にビックリして腰はジンジン。心臓はドキドキしてます。
次回は心葉のお願い事です。