七不思議 其の一
1年2組。
そこが私の教室だ。
そして、現在時刻は16:00。放課後。
「それでね。こう君ったらホントかっこよくて…ねぇ聞いてる?」
友達の沖沢夏穂がしゃべるのを止め、私の顔を覗き込んできた。
明るくて面倒見がいいためクラスの中でも男女問わず仲が良く、クラス二番目にモテている。
ちなみに、一番は田中布織。優しくてめっちゃ可愛い。誰もが認めるモテ女。
「え?あ、うん聞いてるよ。それで、こう君がどうしたの?」
「もう。誤魔化さなくたって、良いよ。さっきから、ぼーっとしてばっかだもん」
そう言って、ニカッと笑うに夏穂。
夏穂は私の性格もしっかり理解してくれている。私も一緒にいて居心地が良いので、よく一緒にいるのだ。
「で、何か悩み事?私でよかったら聞くよ?」
「ううん、大丈夫」
「そう?まぁいいや。私そろそろ帰らないと。じゃあ、また明日ね」
笑顔でお別れをした私は、家庭科室へと向かう。
今日はたしか家庭家部の活動もないはずだ。
今朝、学校に遅刻しなかったのは昨日会った彼のお陰だ。だから、お礼を言わなければならない。大丈夫、相手はアヤカシだけど、友達なんだから。決して怖い存在ではないから。ね、だから早くこの足の震え止まって!
「……ソ、ソノラ。いるんでしょ?」
家庭科室前で5分くらいウロウロしていた私は誰もいない家庭科室に話しかける。すると、フッとソノラは昨日と同じ笑顔で現れた。
『やぁユウナ。今朝ぶりだね。無事に帰れたみたいで良かったよ。それで、一体何のようで来たの?』
「き、昨日はありがとう。お陰で学校にも遅刻せずに来れたよ。それでね。あ、あのさ、この学校の七不思議って知らない?」
私が聞くと、ソノラは目を丸くしたあと、こっちこっちと私を引っ張っていく。
慣れたような手つきで繋いくるものだから、男慣れしていない私は顔が赤くなる。うぅ、相手はアヤカシだって言うのに。
「あ、あの。手っ」
『え?あぁごめん』
私が指摘すれば、パッと素直に手を離してくれた。
ハァと緊張が解けて安堵の息が出る。
しばらく歩いているとソノラが私の目を見て話しかけてきた。
『ねぇ、ユウナの目ってさ何で青いの?もしかして、最近よく聞くカラコンってやつ?わぁ~ユウナったら見かけによらず不良なんだね』
挑発するように笑ってくるのを見ると、どうしても怒りそうになるが、なんとか押さえて冷静に言う。
「この目は生まれつき。私は嫌いこの目。昔からこれのせいでいじめられてきたから」
『え、何で?とっても綺麗なのに』
私が説明するとソノラはキョトンとした顔になる。その顔があまりにもおかしいので、プッと笑ってしまった。すると、本人はぷくっと頬を膨らます。
「皆もそう言うし、私も綺麗だとは思う。水みたいに澄んでいて綺麗だもん。でも、それとこれは違うの」
『だったら、自信持って大切にすれば良いじゃん。もし、それでいじめられるんだったら僕が助けてあげるよ。だって、君は僕の友達だからね』
そう言いながら私の頬を摘まんで上に持ち上げる。強制的に笑った顔にさせられた。痛い。
それより問題なのはソノラが言い終わってニコッと笑ったのだ。向かい合って、頬を摘ままれた状態で、目は普通に目の前にいるソノラの方向へ向いていた。その逃げ場のない状態で笑顔になられたらどうしようもない。自分の顔が赤くなるのを感じた。
『あれ、ユウナどうしたの?顔が真っ赤だよ?もしかして病気?なら、急いで、保健室行かなきゃ!』
「ふへ?」
いきなりあたふたし始めたソノラに大丈夫だよと声をかけようとした瞬間、私は自分の足が床から離れた感覚とやけにふわふわしている感覚に下を向く。
「ちょっ!お、お姫様だっこ!?なにしてんの!?」
思わず叫んでしまった。だって、女の子の憧れ、お姫様だっこをされていたんだから、しかも人ではなくアヤカシに。
私の膝と背中を抱えられて、その間に私のお尻がぽっかり入っている。こんなの同級生に見られたら最悪だ。
『え、だって病人を歩かせるより効率が良いでしょ?』
「そ、そういうことじゃなくて、降ろしてよ変態っ!まず私、病気じゃないから!」
ジタバタ暴れても抱えられてるのでどうしようもない。それどころか、落ちないようにさらにしっかり抱えられるので、身動きがとれなくなっていく。
『病気じゃなくても、このまま行った方が早いと思うけど』
まったく降ろす様子のなく、あっさりとした顔で言うソノラに対し、私は恥ずかしさにどんどん顔が真っ赤になってく。
「い、嫌だ。こんなとこ同級生に見られたらどうするの!?」
『大丈夫だよ。僕の姿は他の人には見えないから』
ほら、顔もまだ赤いみたいだしと言いながら歩くソノラ。
しかし、私は現在進行形でお姫様だっこされてることに更なる焦りを感じた。
「待って、そしたら私、誰もいないのに浮いてる怖い女子になっちゃう。そんなの嫌だ!降ろして!お願いだから降ろしてよ!」
『ちょっ、大人しくしてよ!落ちるかうわぁっ!』
足や手をジタバタさせて抵抗すると、ズルッとお尻から落ちる感覚を感じた。
次に来る痛みを予想しぎゅっと目をつぶる。も、それは来なかった。
「っ…あれ?痛くない」
『……もう。だから大人しくしてって言ったのに』
恐る恐る目を開けば、目の前にあったのはソノラの顔。そして足元を見れば、床のギリギリのところにある自分の体とそれを抱えている手。
いつもよりちょっと怒ったような声にドキリとする。
「ご、ごめん」
『謝るくらいならじっとしててよ。もうすぐ着くしさ』
再び歩き始める彼の腕の中で、私は恥ずかしさと申し訳なさで小さくなり、目的地に着くまでじっとしていたのだった。
『よいしょっと』
「ありがとう……重かったよね。ごめん」
ソノラの目的地それは保健室だった。
掛け声と共に保健室の扉の前でやっとの事で降ろされる。もう、誰かに見つかっても大丈夫だ。
『いいやー。全然平気だよ』
ふるふると頭を横に降りにっこり笑う顔を見ると、本当に大丈夫なのだろうかと思ってしまう。
しかし、ここで私が謝ったり聞いたりすると、この繰り返しになりそうだから止めておこう。
「おい、お前ら何してんだ?」
後ろから聞こえた声にビクッとする。後ろを振り向けば、そこには私よりはるかに身長の高い翔太先生がいた。
「あ、翔太せんせ…」
『翔太だ!久し振りー!』
私が話しかけるより前にソノラが先生に抱きついた。
「ぐぇっ」
先生、変な声を出す。
そのまま、お腹を押さえしゃがむ先生にソノラは慌てる。
『しょ、翔太。大丈夫?』
「先生。保健室入って休みますか?」
私が聞けば、ぐったりした声で先生は言った。
「た、頼む……」
『いやはや、無事で良かったよ』
「ああ、秋月のお陰でな」
『感謝してくれても、良いんだよ』
「ああ、秋月には感謝しないとな」
『いやー。照れるなぁ』
「ありがとな、秋月」
『ねぇ、僕の話も聞いてよ。ユウナもそう思うよね!』
保健室のソファーにて、ぐったりしている先生とソノラが噛み合ってるようで噛み合わない話をしている。
「あの、私を巻き込むの止めてくれない?」
私が苦い顔で言えば、先生はすまんすまんと言いながら起き上がる。
「そういえば、お前ら、ここに何のようだ?」
『そうだ、すっかり忘れてたよ。あのね、ユウナが七不思議教えてほしいんだって』
ソノラがにこにこ笑顔で言うと、先生はさっきの私よりも苦い顔になった。
「ソノラとも会えたらしいし、教えてやってもいいが、ぜんぶまわるつもりか?」
「はい。どうせなら。怖いのは苦手ですけど、がんばります」
私がグッと手を握りながら言うと、先生はハァとため息をついた。
ソノラもいつもより真剣な顔をしている。
「それじゃあ、教えよう。蒼月学園七不思議を―――」
お姫様だっこをしたソノラ。
そんなソノラに慌てる優奈。
翔太は、そんな二人を見かけ慌てて隠れてました。先生が声をかけなかったお陰で優奈は不登校にならずにすみましたね(笑)
本人は無自覚でやってます。天然ちゃん?
次回は、七不思議メンバーの一人を探しに行きます。