いざ、保健室へ
5時間目――
私は今授業をさぼって保健室へと向かっている。
校舎の裏から行くにはまず、裏口から校舎に入り、2年生と1年生の教室の前を通って、体育館の前を通り抜けなければならない。
ちなみにこの学校は小中一貫、ほとんどのメンバーが小一から一緒だ。
これがなかなか難しい。
まず、教室エリアだが先生の目と空気を読むということを知らない子供の目に見つからないようにしなければならない。子供に見つかったら終わりだと言って良いだろう。
次に、体育館エリアだが扉がガラスなため簡単に見つかってしまう。今は丁度4年生が使っているはず。今日やるのは…確かバスケのはずだ。皆がボールに夢中になっているところを狙うしかなさそうだ。
(なんとか、ここまで来れた…)
難関ポイントを越え、ここは保健室前だ。
ついに着いた。
途中で子供に指を指されそうになったり、同級生がこちらに走ってこようといてたけど、なんとか逃れられた。
この数分でずいぶんと疲れた気がする。
コン コン コン
「失礼します」
扉を開けば保健室独特の消毒液の匂い。
優しそうな先生が寄ってきて私に声をかける。
「あの、翔太先生はいますか?」
「明智先生?ちょっと待っててね、呼んでくるから」
そう言って、先生は私の視界から消えた。
明智 翔太。
その人は彼方からの紙に書かれていた人物だ。書かれている事が正しいならば、彼は彼方の言っていた事について詳しいはずなんだけど。
「えっと…翔太先生、ですか?」
「ああ、そうだ。一体何用だ。今は授業中だぞ」
現れたのは、名前の様に明るいひとではなく、厳ついとか勇ましいとか怖いのような人だった。
肩幅の広い体。私の身長の倍もあるような先生を前に私は今、全力で逃げ出したい。
「あの、ある人から助けてほしいって言われて、ここに来れば分かるって言われて」
「そいつは、どんな奴だった?」
「えっと、真っ黒な髪にぱっちり開いた目をした男の子で、でもなんか不思議な雰囲気があるっていうか、いたずら好きそうな子なのにとても悲しそうに見えたりとかえっと…」
先生の威圧感に頭の中がパニックになりながらも説明していると元々怖い先生の顔が更に怖くなっていた。
「お前、名前は何て言う?」
「えっと、秋月優奈です」
「そうか。秋月、ついてこい」
そう言うと、保健室の先生にしばらく留守にすると言って、歩き出した。私も置いていかれないようにやや小走りで後をつける。
やって来たのは校舎の裏。1時間もたたないうちに再びここに来るとは思わなかった。
「それで何が知りたい」
校舎裏に来て開口一番がそれだった。
「あ、はい。あの先生に会いに行けっていった人が彼方っていうんですけど、先生ご存じですか?」
「ああ、知っている。あいつは幽霊とか都市伝説が好きなやつでな、昔から俺のところによく来ていたんだ。俺もそういうの好きな方だからな」
幽霊、都市伝説…。
「どうした?秋月、お前そういうの苦手な方か?顔が真っ青だぞ」
「はい。昔から夜中のトイレに一人で行けないタイプで、なんか暗いと色んなものが見えてきそうで…」
小さい頃は暗いのなんて全然平気で、おじいちゃんの家へ行ったときとか夜こっそり抜け出してお庭で遊んでいたらしい。しかし、いつからだろうか。幽霊とか暗いところとか全く駄目になったのだ。それ以来、夜のトイレにいくときは電気をつけなくては行けなくなった。
「そうか、それは残念だ。お前にあいつを助けるのは無理だな」
「え?」
どういうことだろう。
今話していたのは幽霊の話だつまり…
「あいつを助けるんだったら、幽霊なんて平気じゃないとな」
頭の中が真っ白になる。
怖い。行きたくない。でも、助けたい。行かなきゃ行けない。
自分の中で相対した気持ちがぶつかり合う。
「迷っているのか?」
「……」
「迷うのは良いことだ。迷って迷って迷い抜いて出した答えは、誰が言おうと正解だからな」
そう言って先生は少しだけ笑った。
あの怖い顔を少しだけ崩して、迷えと言った。
私は、どうすればいいんだろう。
頭の中に彼方の顔が思い浮かぶ。
笑った顔。真剣な顔。あの、悲しそうな顔。
会ったばかりで過ごした時間は短かったけど、彼の事が頭から離れない。
「私は…わた…しは……」
決めた。
「私は、彼方を助けます!だから教えください、助ける方法」
やらない後悔よりやって後悔しよう。ううん。絶対に、絶対に後悔なんてしない。するもんか。
「そうか。では、これを渡そう」
先生は、ニヤリと笑って1枚の紙と小さな箱を取り出した。
紙には『護』と書いてある。
受けとると、箱は丁度私の手のひらサイズだった。
「これを持って、夜の家庭科室に行きなさい。入り口は先生が来て開けてやるから。あ、箱は開けちゃ駄目だぞ」
「夜の…学校……」
「ああ、夜の学校だ。大丈夫。何かあってもこの札が守ってくれる。札には神様が宿っているからな。信じなさい」
そう言って、右手の拳を出してくる。私も拳を出せば、トンと付き合わせる。
私達は顔を見合わせ、笑った。
「言ったからには絶対に助けてもらうぞ」
「は、はい!」
校舎裏には校庭にある桜の木から花びらが飛んできていた。
一見怖い先生にドキドキした優奈。
内心、こいつできんのか?と不安な翔太。
次回は、夜の学校へ行きます。