プロローグ
4月――
私の名前は秋月 優奈。
黒い髪に青い目をしている。この目は生まれつきで学校に来ると毎度のように、カラーコンタクトはやめなさいと言われ、その度に私は説明をしなければならなかった。もう、うんざりなのだ。だから、私はこの目が大嫌いだった。
越してきてまだ日の浅いこの新しい街にもちょーっとずつ慣れてきた私は中学校という新たな世界に1歩を踏み出し、クラスの子達とそこそこ仲良くしていた。元々、誰かと特別仲良くするタイプでは無かったので構わない。それでもやはり女子というのは群れるもので私にも普段、一緒に行動する子はいる。
学級が始まってだいたい1週間たった頃。
――ねぇ、突然だけど、君は学園の怖い話知ってる?
ふと、誰かが話しかけてきた。
私は読んでいた本から顔をあげる。
そして、首を横に振るとその子は目を丸くした。
――え、知らないの?…ふぅん。
真っ黒な髪。ぱっちり開いた目。幼い顔つきなのにどこか大人びた男の子。
男子にしては少し高い声でその子は言ってきた。
――じゃあさ、僕が教えてあげるよ。
にっこりと笑うその顔は不思議な雰囲気を漂わせていた。
(中学生…だよね。まるで何十年も生きている人みたい)
男の子は私の手を取り、立たせるといきなりダッと走り出した。
「うぇ!?」
予想外の行動によって腕をグイッと引っ張られ、転びそうになった私からはなんとも変な声が出た。ちょっ、誰の声なの?ていうくらい。
男の子に引っ張られ廊下を走り抜け、階段を駆け下り、校舎の裏へとやって来たところで私は何かにぶつかった。
痛む鼻を押さえながら顔をあげると、そこにはさっきの男の子の顔が。
「ごめんね、いきなり止まっちゃって。大丈夫?」
あまりの近さに産まれてこの方男なんて一切縁の無かった私は顔を真っ赤にしながら、バッと距離をとる。
「うわぁ顔真っ赤。そんなに驚かせちゃったか。ホントゴメンね」
挑発するかのように言う男の子は絶対に楽しんでいる。
「……それで、私になんの用なの?怖い話がどうとか言ってたけど、わざわざこんなところにまで連れてき……ハッ」
そこまで言って私は気がついた。
男の子の方を向くと、彼の顔をめがけて指を指す。よくテレビで犯人はあなただ!とかやるみたいにビシッと決める。
「わかった!君、私に告白しようというのね!」
そうだ。そういうことだったのか。
私にもついにモテ期が来たんだ。
隣に住んでいる幼馴染みにバカにされることももうない!やった!
「そうそう。僕、前から君の事が気になって……ないよ!新しいクラスになって1週間。前から気になるとかまずないし。てか、誰がお前なんかに告白するって言うんだ。こんな、地味で本ばっか読んでていかにも優柔不断そうな中途半端な奴なんかに!」
「ひ、ひどい!なにもそこまで言うことないじゃん」
確かに地味で本ばっか読んでていかにも優柔不断だけど、中途半端な奴だけど、そんなはっきり言われると傷つく。
「あれ?もしかして、傷ついちゃった?てことは図星?」
「う、うるさいっ!会って間もないあなたに何がわかるって言うの!」
恥ずかしさのあまり、その場にうずくまると、ニヤニヤしながら聞いてくる男の子の挑発が。わかっていながらも反応してしまう自分が嫌だ。
うぅと頭を抱えていると、隣が静かなことに気がついた。
顔をほんの少し向けると男の子の顔があった。しかし、そこにさっきまでの明るさはなく、真剣そのものだった。
「…じゃ……ない……」
「え?」
なにか呟いたが聞こえず、思わず聞き返した。
「……初めてじゃ…ない……よ」
サァッと優しい風が私達の間を通り抜ける。
「…僕らは昔、会っている。この町で…1回だけだったけど…ね」
そう言って笑うが、作り笑顔だってことがすぐにわかるほどぎこちなかった。
「うそ…でしょ」
つい、言葉が口からこぼれた。
そうであってほしい。だって、私は産まれてからこの歳になるまで1度だってこの町に来たことがないのだから。
「残念ながら、嘘ではないんだなぁ。…ま、そんなことより僕には大事なことがあるのさ」
「なによ、大事なことって?」
男の子はどこか含みのある言い方で事をはぐらかした。そして、自分の用件を言い出す。
「助けてほしいんだよ」
「は?」
「僕らを助けてほしいんだ」
そんな困り顔で言われても困る。あまりにも言ってることが抽象的なのだ。
「誰を、どうして、どうやって」
「それはね――」
キーンコーンカーンコーン
その先の言葉は昼休みの終わりを告げるチャイムにかき消された。
「今、何て言って……」
「時間切れのようだね。僕はもう行かなきゃ、もちろん君も。それじゃあねユウナ」
「え……ちょっ、待って!何で」
何で私の名前を知っているの?
そういおうとした瞬間、突風が吹いた。
思わず目を閉じると、耳元で、声が聞こえた。
――大丈夫、またすぐに会うから
一瞬だったけど、とても長く感じた。
風が止み、目を開けると頭に何かが触れた感触。
もう、彼の姿は見られない。どこへ行ったのだろう。
パラリと目の前に落ちてきたのは紙。
そこには、
『詳しいことは彼に聞いて。僕らのこと、よろしくね。 彼方』
とその“彼”がいる場所が書いてあった。
「彼方?それが彼の名前なの?……やっぱり、聞いたことなんてない…」
記憶のどこを探っても、彼との思い出は一切ない。
キーンコーンカーンコーン
(あ、5時間目の授業が始まった)
この学園には昼休みと5時間目の間に5分の準備時間がある。1回目のチャイムで座っていなけれらもう授業なんて間に合わない。
間に合わないとわかった瞬間、急がなきゃという焦りが消え落ち着きがくる。不思議なものだ。
(まぁ、とりあえず…行ってみるか)
彼方が残した紙に書かれていた場所は保健室だった。
最近、ホラーにはまってて新シリーズ始めました。
これまで、途中で終わることも多かったですが今度は続けられるようがんばります。続くかな。…続けられるといいな。
そんな事より、主人公の優奈。親しみが持てるキャラに出来たら…いいな。なんて思ってます。
よろしくお願いします。
次回は、主要キャラとまではいきませんがそこそこ重要キャラが出てきます。