#069 覚悟
「まじか!」
そう言ったのはゾンビ殲滅局東京本部、対策2の対策官の冨沢だった。冨沢は林から会議の内容を聞くと机の上に置いてあった拳銃をとってこう言った。
「アイツらと全面戦闘するってことだよな?」
冨沢がそう聞くと林はゆっくりと頷いた。
「どうすんの!俺らでもアイツらとの戦いなんてたいしてしてないのに、決着をつけるなんて……」
「確かに俺もさすがに今回は生きて作戦を終えられるか分からない…… だけど冨沢もいろいろと戦ってきただろ?その技術を今回の作戦で上手く使うしかないんだ」
林はそう言うと自分の席についた。しかし、今日の林はいつもと違った。いつもは落ち着いているのに今日は林の手が震えていた。それは小牧も気付いていた。
「林三佐、俺らは東京駅のどの辺にいるのでしょうか?」
そう聞いたのは塚西だった。すると林はポケットから東京駅の見取り図をとりだした。
「この班は東京駅の地下一階にある八重洲地下中央口だ。因みにここから少し離れたところにある銀の鈴待ち合わせ場所に倉科部隊が待機しているらしい……」
林はそう言うとその見取り図を塚西に渡した。すると、その様子をただ見ていただけの小牧に冨沢がこう言った。
「小牧、ちょっとあそこ行こ!」
冨沢はそう言うと小牧を強引に部屋から出そうとした。すると林が冨沢にこう言った。
「あそこってどこに連れてくつもりなの?」
「気にすんな、あそこだ!」
冨沢はそう言うと小牧を連れて部屋から出てしまった。するとその事について中鈴が林にあることを聞いた。
「林三佐は冨沢准官がいっていたあそこが何か分かりますか?」
中鈴がそう言うと林はあきれた顔をしてこう答えた。
「さあね。だけどアイツも馬鹿じゃないはずだし大丈夫だろう。多分な……」
林はそう言うと大量の紙が入っているファイルを棚からとりだした……
ゾンビ殲滅局東京本部、食堂……
「小牧は一週間後に行われる作戦をどう思う?」
冨沢は食堂につくとすぐにそう聞いてきた。
「よく分かりませんが、成功させなくてはならないということは分かります」
小牧がそう言うと冨沢は席に着いた。そしてこう言った。
「俺がゾンビ対策官になって大規模作戦に参加したのは一等になってからの事だ。その時俺は埼玉支部にいたんだが、そこで廃工場の敷地内にいるゾンビを一掃する…… それがはじめての大規模作戦の内容だった。この時、作戦は無事成功して死者も出ずにすんだ。しかし俺が対士長になり東京にきてからの事だ。東京に来てすぐに下水処理施設にいるゾンビを倒す作戦が行われた。この作戦は廃工場殲滅作戦より規模が小さかったから余裕だと思った。小牧も知っているはずだ。東京下水処理施設殲滅作戦を……」
小牧はその作戦名を聞くと、どこかで聞いたことがある名前だと感じた。そして少し考えるとその作戦名を林が言っていたのを思い出した。
「確かその作戦って、参加した6班30人の内、23名が殉職したやつ……」
「そうだ。俺も林もその作戦での生き残りだ。あの時は運よく生き残れたが、今回は分からない。小牧もそれなりの覚悟を決めておいた方がいいぞ……」
冨沢はそう言うと席から立ち上がり部屋へと戻って行った。小牧はそんな東京駅のを見て、自分よりもはるかに強い人も次の作戦では生きてこの建物に入れなくなる事を覚悟していることを知った。しかし、小牧にもまだやりたいことが山ほどあった。なので絶対生き残ると自分に言い聞かせると、冨沢のあとを追って部屋へと戻って行った……
「東京駅作戦」前日、東京駅午後九時……
この時間にはすでに対策官によって駅に民間人が入れないようになっていた。そして東京駅の丸の内中央口には拡声器を持った宇土がいた。宇土は拡声器を使って近くにいる班長に細かい指示を出していた。
「宇土司令!作戦司令車が到着しました!」
宇土の部下の油井が言うと宇土は拡声器を口元から下ろした。
「分かった。一度司令車の中を整えようか。作戦が始まってからじゃそんな事できないし……」
宇土はそう言うと油井の後について歩き始めた。その宇土の腕には「主指揮」と書かれたものがつけてあった……
東京駅、銀の鈴待ち合わせ場所……
「皆準備は出来た?」
そう言ったのは第二部隊隊長の倉科だった。すると倉科の部下たちは皆頷いた。
「もし私が作戦の途中で動けなくなったら隊の指揮は丹波に任せるよ」
倉科はそう言いながら丹波の肩に手を置いた。すると丹波はその手を払いどかすようにこう言った。
「やめてくださいよ。隊長これくらいじゃ死にませんって……」
丹波はそう言うと同じ隊の仲間を見た。仲間たちは他の班とかと違い、戦闘には馴れているせいか誰一人と怯えていなかった。やはり、そこが対策1と対策2の大きな違いなのだ……
油井夢隼
司令官補佐
武器……拳銃




