#237 知識
「会話を遮るようで悪いが、埼玉支部は今回の作戦に参加しないのではないか?」
そう言ったのは有川だった。有川はこの三人の中で唯一、今回の作戦について細かく知っている人物だった。なので有川には何故埼玉支部の人間が来ているのかという理由を知る必要があった
「えぇ、確かに埼玉支部としては不参加ですね。ですが、個人としてなら……というわけです」
昆川は有川にそう言った。するとそんな昆川の所に一人の女性対策官がやってきた。その女性対策官は昆川の横につくと、有川にこう言った
「そこから先の話は私から説明します。昆川では不十分になりそうですので」
女性対策官はそう言うと昆川の肩に手を置いた。すると昆川は「別に俺が言っても良いじゃないですか」と言いながら手をどかした
「貴方は昔から他人に何かを説明するのが下手なのでね。私がやります」
女性対策官は昆川にそう言った。昆川は確かに子供のことから他人に何かを伝えるのが苦手だった。なのでそれ自体には昆川にも自覚があり、言い返せなかった
「あー、論破されたわ。そんじゃあ後は頼みますわ」
昆川はそう言うと他の対策官のいる所へと行ってしまった
「話を戻します。質問は何故埼玉支部の人間がここにいるの?ですよね?」
女性対策官は有川にそう聞いた。すると有川は「えぇ、そうですけど貴女は……」と自己紹介を求めた
「おっと、これは失礼。自己紹介が遅れました」
女性対策官はそう言うとポケットから対策手帳を取り出した。そしてそれを開き、有川達に見せながらこう言った
「埼玉本部対策1で班長をしている山本です。どうかお見知りおきを」
山本がそう自己紹介すると、今の発言に対して小橋が「埼玉本部?」と聞き返した。すると山本は「これは失礼。東京からだと埼玉は支部になりますね」と言った
「ん?林、どういうこと?」
山本の訂正の意味が分からない小橋は林にそう聞いた。すると林は「埼玉支部ってのはあくまで東京本部での呼び方なの。だから埼玉では埼玉本部って呼ばれてるの」と説明した
「あー、つまり埼玉支部の人からすると、ここは東京支部になるってことか」
小橋は手をパンッ!と叩くとそう言った。けれどそれに対して山本は「いえ、他は知りませんが、少なくとも埼玉支部の人は東京支部とは呼ばず、東京総本部と呼んでいます」と言った
「あり?」
「まぁそういうことだ。別に気にするほどのことでもないだろ」
林は小橋にそう言った。するとそんな林に小橋は「てかさ、なんで林は呼び方が違うことを知ってるの?」と聞いた
林と小橋は班長になるまでの時間のほとんど共にしてきていた。なので林がどこでその知識を得たのか小橋は気になった。するとその質問に対して、有川が「冨沢じゃないのか?」と言った
「冨沢が?何で……あー、そういえばアイツ埼玉支部出身か」
小橋はそう言うと頭を押さえた。するとそんな会話を聞いていた山本がこう言った
「その冨沢という方は冨沢学であってますか?」
「はい。あってます」
林は質問に対してそう答えた
「それで今は貴方の部下に?」
「はい。冨沢はうちの班の副班長です」
林はそう答えた。するとそんな林に山本は「あら、副班長だなんて……ちゃんと仕事してる?」と聞いてきた。なので林は「おそらく今はしてません」と言った
「あらあら。やはりサボり癖はなおってないのですね」
山本はどうやら昔の冨沢を知っているみたいだった。なので林は「昔の冨沢を知ってるんですか?」と聞いた。すると山本は「えぇ、勿論。何しろ私の部下でしたから」と答えた
その直後だった。突然どこからかキーンッ!という音が聞こえてきた。その音は東京本部の一階に響き渡り、一階は静かになった
「何だ今の音は……」
有川はそう言うと音のした方向を見た……
『藍卯か。埼玉支部からきた対策官の使い方を決めたのか?』
拡声器を持っている藍卯を見た有川は心の中でそう思った
「あー!埼玉支部の対策官はよく聞け!今すぐに第一会議室に来い。分かったな」
藍卯はそう言うと拡声器を下ろし、エレベーターホールへと行ってしまった。するとそんな藍卯を見ていた山本は「えっと今のは?」と三人に聞いた
「今の人は藍卯丙、本部の作戦立案官です」
小橋は山本にそう言った。するとそんな小橋に有川は「いや、それを聞きたいんじゃないだろ」と言い、山本にこう言った
「申し訳ない。アイツは普段からあんな性格でして……」
「いえ、ただ驚いただけです。別に謝罪は求めてないので……」
山本は手を横に振りながらそう言った。すると有川は「とりあえず埼玉支部の方は第一会議室に移動をお願いできますか?さっきの人はアレでも主司令でして……」と言った
「そうでしたか。ですが、第一会議室がどこにあるのか……」
「それについては案内します。こちらです」
有川はそう言うと山本をエレベーターホールへと案内した。すると山本は有川に「有難うございます」と言い、後ろを見た。そして同じ埼玉支部の仲間に「みんな移動するよ」と言った
「二人は先に部屋に戻ってな。この時間になれば、いつ何が起きてもおかしくない」
有川は腕時計で時間を確認するとそう言った。なので林は「了解です。それでは失礼します」と言い、この場を去った……
山本未菜
二等ゾンビ対策佐官
武器……槍
短刀
拳銃




