#229 生死
「ほうほう。なかなか面白い資料を持ってるじゃないの」
調査官はそう言うと資料を及川に返した。すると及川は資料を受け取るとこう聞いた
「岡本さんは調査1所属ですよね?」
「あぁ、そうだけど何か?」
「ならこの情報、知ってますよね?」
いま及川が話しているこの調査官。岡本雄菜は調査1をまとめあげる人物だった。なので及川は岡本が調査部のお偉いさん同士の会話で、この事を聞いているのではと考えたのだ
すると岡本は首を横に振るとこう言った
「いや、初耳だったよ。というより、ゾンビ愛護団体の中に潜入捜査官を送っていることすら初めて知ったよ」
「まさかまさか。潜入捜査官を送ってる件は何年も前からありますけど……」
及川は驚きつつそう言った。実際のところ、調査4は情報管理課ができる前からゾンビ愛護団体に潜入捜査官を送っていた。なので及川は岡本がその事を知っているものだと思っていた
「本当よ。機密情報を知るのは最低限の人物だけで良い。その事を一番分かっているのは調査官なの。だから互いに何をしているかは話さないの……」
岡本はそう言うと近くの椅子に座った
「勿論、調査4はここに潜入捜査官を送ってるんじゃないかみたいな話はするよ。けど、それが本当かは調べないの。それを知ったところで意味がない……それどころか情報が漏れやすくなるからね」
調査部は調査1から調査5まであるが、そのどれもが機密情報を扱っていた。しかもそれらの情報は違法捜査によって得られたものもあるため、外部に漏らすことだけは何としても避けなくてはいけなかった。なので調査官達はあくまで自分の担当を全うし、他の人の仕事には関わろうとしなかった
「そんなルールがあったんですね」
及川がそう言うと、岡本は「ルールというより暗黙の了解だね。別にそんなルールないし。ただ、何でか知らないけどこの了解を破ろうとした人はみんな調査部からいなくなってるのよね」と言うと机の上に置いてあるお茶を飲んだ
『いや、それって故意に追い出してるだけじゃ……』
及川がそう思ったときだった。突然岡本がむせ始め、お茶の入っているコップを机の上に音をたてて置いた
「大丈夫ですか?」
及川はそう言いながら岡本に近付いた。すると岡本はこう言った
「情報管理課ってなかなか渋いお茶を使ってるのね」
「あの、ごく普通の緑茶ですが……」
及川がそう言うと、川瀬が「これっすね」と言って二人に緑茶のティーバッグを見せた。それは何処にでもある一般的なもので、変わっているものではなかった。するとそれを見た岡本はこう言った
「いや、すまない。そろそろ業務に戻るよ」
岡本はそう言うと立ち上がり、部屋から出ようとした。けれど岡本に何かあっては困るため、及川は「あの、無理はよくないかと……」と言った。すると岡本は及川にこう言った
「大丈夫だ。ただ私は麦茶以外のお茶は飲めないタイプでね。勝手に飲んだ私のせいだから気にしないで」
岡本はそう言うと部屋から出ていった……
「あー、そういうことですか。納得!」
川瀬は岡本の発言を聞くとそう言った。なので及川は「どういうことなの?」と聞いた。すると川瀬はこう説明した
「たまにいるじゃないですか。いつも食べたり飲んでるものしか体が受け付けないって人。つまりはそういうことですよ」
「うーん?」
川瀬にそう言われたものの、及川は分からずそう言った。するとそんな二人の会話に榎本が割り込んできた……
「雑談中悪いんだけど、その資料貸してくれない?俺も気になるのよ」
榎本にそう言われると及川は「どうぞ」と言いながら資料を渡した。すると榎本は「サンキュー」と言い、自分の席に戻っていった
「さっきの話だけど、私にはそういうのは……」
榎本が去ると二人は会話の続きをしだした。榎本は二人の雑談を聞きつつ、資料を読み始めた
『愛護団体生存者リストか……』
ゾンビ愛護団体のメンバーは少し前に行われた『ゾンビ愛護団体総本部強制捜査』以降、生死が分からない人が何人もいた。なのでこの資料はその調査報告書のようだった
『さて、重要なメンバーどうかな?』
榎本はそう思いながら紙をめくった。この報告書は左側に名前が、右側に生死が書かれていた。なので榎本は紙の右側だけをざっと見た。けれど二枚目の紙には「生存」という文字はなかった
『予想してたけど、やっぱり全員死んでるか……』
『ゾンビ愛護団体総本部強制捜査』では特殊部との激しい戦闘により、誰だか分からない死体が山のように出ていた。なのでこれだけの死者の名前が書かれているにも関わらず、榎本は不思議に思わなかった
『結局、強制捜査時に総本部におり、なおかつ生き残ったのは七名か。しかもその内の四人は重傷……』
榎本は資料を茶封筒にしまうと、心の中でそう言った。そして立ち上がると、茶封筒を持って部屋から出ていった……
月野木麻織
二等ゾンビ対策佐官
常備武器……拳銃




