#227 束
それから一時間後
東京本部、対策2専用室……
「さてと……」
冨沢はそう言うと椅子に座った。そして机の上で手を組むと「帰りたい」と言った。するとその発言に対して中鈴が「いまの時間知ってます?」と聞いた
「今回は作戦開始が午前でしたから、終わるのも早かったですね」
小牧は時計を見ながらそう言った。すると冨沢は「なら早く帰ってもよくね?」と言った
「訳分からないこと言ってないで仕事してくださいな」
中鈴はそう言うと冨沢の席に資料の束を渡した。するとそれを見た冨沢は「何でや!林はとくに指示出してなかったはずだぞ」と言った
「確かにそうですが、かなりたまってるみたいですから……」
「えぇ、このくらい」
佐伯はそう言うと、冨沢にこれからやる資料の束を見せた。すると冨沢は「まじか……」と言って固まってしまった
ガチャッ!
部屋の扉が開くと中に林が入ってきた。林は冨沢を見ると「戻ったよ。それより何があったの?」と近くにいた小牧に聞いた
「それが色々ありまして……」
小牧は何と説明すれば良いか分からずそう言った。すると林は小牧の話し方的に触れてはいけない何かがあった……と読み取ってしまった。なので林は話題を変えようと冨沢にこう言った
「冨沢、何があったかは知らないけど、これやっておいてくれない?」
林はそう言うと冨沢に茶封筒を渡した。そして「辛いことがあったら違うことをするのが良いよ」と言い、席につこうとした。けれど、林が席につく前に冨沢はこう言った
「違うこと?何も変わってないじゃん!むしろ難易度上がってない?」
「うん?」
林はそう言われると冨沢の机を見た。けれど冨沢の机には仕事関係のものは何もなかった。すると何が起きているのかよく分かっていない林に佐伯が小声でこう言った
「林二等、こっちに」
佐伯はそう呼んだ。なので林が佐伯のいるところに移動すると、冨沢に何があったのか理解できた……
「なるほど、これを見て絶望したか……」
冨沢の机の横には、先程佐伯が出した資料の束が積み重なっていた。しかもその束は一つだけではなく、いくつもあった
『まぁ、確かにこれを一人でやれって言われたら絶望するな』
林は心の中でそう言ってから冨沢に話しかけた
「冨沢、何に絶望してるのか知らないけど、この資料、うちの班だけの物じゃないよ」
林がそう言うと、今まで机に顔を伏せていた冨沢が急に顔を上げた。そして林に「まじ?」と聞いた
「本当だよな。小橋」
林は隣のスペースにいる小橋にそう言った。すると小橋は「あぁ、その資料は林、小橋班でやるものだよ」と言った
「何だ。一人でやるんじゃないのか。なら良かった良かった」
冨沢はそう言うと立ち上がり、何処へ行くかも言わずに部屋から出ていってしまった
「うん。良くはないな。俺達にとっては……」
冨沢が部屋からいなくなると、林はボソッと言った。するとそれを聞いていた小橋は「相変わらず冨沢は自由だね」と言い軽く笑った。すると林は「そう言ってられるのは最初だけだ。後に後悔する」と言った
「そうかな?」
「絶対そう。冨沢は外飼いしてる猫より自由だからな」
林はそう言うと机の中から黄色のファイルを取り出した。そしてその中から紙を取り出し、仕事を始めた
「何がともあれ頑張れよ」
「それはお互い様にね」
林が仕事をしながらそう答えたときだった。突然小橋班の仕事スペースからガラスが割れる音がした。なので林が「何があった!」と言い、駆けつけるとそこにはアイスコーヒーを頭から被っている小橋がいた
「すみません。ちょいっとつまずきまして。でも問題ないです」
そう言ったのは小橋の部下である星水だった
『これで問題ないのか……』
林は小橋を見ながらそう言った。すると林に見られていることに気がついた小橋は「林、世の中って理不尽だよな」と言ってきた
「え?どうした唐突に」
「いや、何でもない」
小橋はそう言うと机の中からタオルを取り出して頭を拭き始めた。するとそんな小橋を見ていた星水は「冬なのにアイスコーヒーで良かったですね」と言った
「うん。良かったよ。この場に冨沢がいなくて……」
小橋はそう答えると、そのあとは何も言わずにこぼれた飲み物の処理をし始めた
『確かにこの場に冨沢がいたらからかうだけじゃすまなそうだし…… うん。それだけは本当に良かった』
林は心の中でそう思うと、小橋に「手伝おうか?」と聞いた。すると小橋は「大丈夫。先にあの仕事やってて」と言いながら、冨沢の机の横にある資料の束を指差した
「あぁ、分かったよ」
林はそう言うと席についた。そして仕事をしようとした。けれど林の位置からでは小橋が見えてしまい、仕事をしようにも出来なかった……
丹波颯友
准ゾンビ対策官
武器……槍
短剣
拳銃




