#221 慣れ
『これはまずいな……』
藍卯はそう思いながら廊下を歩いていた
この『西野原電機強制捜査』は他の場所と違い、監視部による下見の時点で簡単に終わる作戦だと思っていた。なので今回のような違法物が見つからなかったときの対策を何一つしていなかった
なので藍卯は足早でとある部署に向かっていた……
調査3専用室前にて……
『ここだな』
藍卯は『調査3』と書かれている看板を見ると、心の中でそう言った。そして扉を開け、部屋の中に入った
「邪魔するぞ。月野木はいるか?」
藍卯はそう言うと部屋の中を見回した。しかしこの部屋には人がほとんどおらず、大半の人がどこかへ行っていた
「藍卯作戦立案官、今回はどうされましたか?」
藍卯が部屋の中を見渡していると、突然後ろから声がした。なので藍卯が振り返ると、そこには女性対策官が立っていた
「何人か貸してくれ、予想外のことが起きた」
藍卯はそう言った。すると月野木は「何をすれば良いんですか?」と聞いた。なので藍卯はこう言った
「証拠の偽造だ。ゾンビ菌の入ったビンとかを上手く仕込んでほしい」
藍卯がそう説明すると月野木は「分かりました」と言い、近くにいる部下にこう言った
「和倉君。悪いんだけど藍卯さんの手伝いに回ってくれない?その仕事はこっちでやっておくから」
「構いませんよ」
和倉はそう言うと、手に持っていた資料を机の上に置いて立ち上がった
「和倉君の補佐として才所さんも行ってきてくれる?」
月野木は和倉の向かいの席に座っている部下にそう頼んだ。すると才所も「分かりました」と承諾した
「ということで、そちらの件にはこの二人を行かせます」
月野木は藍卯にそう言った。すると藍卯は二人の顔を見るとこう言った
「こっちは時間がない。さっさと行け。細かい指示は神尾から聞け」
藍卯はそう言うと対策3専用室から出ていった……
ガチャンッ!
「今の人、だいぶクセのある人だね」
扉が閉まったのを確認すると、和倉はそう言った
「まぁね。私も初めて会ったときは戸惑ったよ」
和倉の発言に対して月野木はそう言い、苦笑いをした
月野木は調査3のリーダーであり、作戦の事で何回も仲野と会話をしてきていた。そして、その会話のときの雑談として藍卯の過去を聞いているため、何故藍卯がこのような人格になっているか知っていた。けれど、その事は仲野から口封じされているため、藍卯のことについて聞かれた場所、笑って誤魔化すしかなかった
『まぁ、彼女の過去を知ってからは色々と納得したけど……』
月野木は心の中でそう呟いた
「和倉さん。私、対策部からゾンビ菌貰ってきます」
そう言ったのは才所だった。すると和倉は才所に「貰うときは右京からね」と言った。すると才所は「えぇ。もちろん把握してます」と言い、部屋から出ていった
調査3の主な仕事は工作活動である。その内容は、今回のような偽造工作から調査4のサポートをする妨害工作まで様々だった
しかしこれらの工作活動は基本的には他人に知られずに行わなければならなかった。なのでゾンビ菌の受け取りといった準備は、調査部の事情を知っている者に助けてもらう必要があった
それからしばらくして、対策部対策5……
才所は扉を三回叩いてから「失礼します」と言い、扉を開けた
「右京さん。少々宜しいですか?」
才所は椅子に座って、分厚い本を読んでいる男性にそう言った。しかしその男性は才所に呼ばれているにも関わらず、返事どころか何の反応もしなかった
すると才所は溜め息をつくと、右京の肩を叩いた。すると右京は「あぁ、才所か。突然どうした?」と才所を見てそう言った
「突然って…… いま普通に呼びましたけど……」
才所はそう言った。すると右京は「悪い悪い、ちょっと前まで偽名で呼ばれてたからつい……」と言い、頭をかいた。すると才所は「伊中さんと呼ぶ方が良いですか?」と言った。すると右京はこう言った
「いや、大丈夫だ。その辺は慣れだから。それで何の用?」
「ゾンビ菌を下さい」
才所がそう言うと伊中は自分の実験室に入った。そしてゾンビ菌の入った瓶を持って実験室から出てきた
「はい。扱うときは気を付けて!間違うとゾンビになるから」
右京はゾンビ菌入りの瓶を才所に渡すと、そう注意した
「えぇ、これでも私は一人前の工作員です。昔みたいな見習いではないので大丈夫ですよ」
才所は瓶を受け取るとそう言った
「そうだな。もうだいぶ時も経ってるもんな」
右京はそう言うと椅子に座った
「私はこのあと急ぎの仕事があるので……」
「分かった分かった。思い出話はまたいつか。何度も言うようだけど、取り扱いには注意ね」
才所は右京にそう言われると、部屋から出た。そして和倉のいる調査3専用室へと向かい始めた……
才所天音
一等ゾンビ対策官
常備武器……拳銃




