#217 主流
午後七時、対策2専用室……
「さて、そろそろ終わりにしようか」
そう言ったのは林だった。すると冨沢は突然立ち上げると、机の上に置いてある資料を片付けずに帰宅の用意をし始めた。そして荷物をまとめると林に「そんじゃまた明日ね」と言い、部屋から出ていってしまった
『相変わらず冨沢は帰宅が早いな』
林は心の中でそう言うと部下達を見た。しかし三人はまだ仕事をしていた。なので林は三人に「区切りよくなったら三人も帰りなよ」と言った。すると林に対して小牧がこう言った
「勿論です。前みたいにはなりたくないので……」
小牧はそう言うと机に置いてある資料を片付け始めた
「まぁそうだな。他の部署は知らないけど、対策部にはソレあるからな」
林はそう言うと部屋から出ていってしまった
「それ?小牧何かあったのか?」
小牧に聞いてきたのは中鈴だった。なので小牧は少し前にあった『ゾンビ愛護団体総本部強制捜査』の事について話し始めた
小牧を含む林班はその日は昼担当で、夜担当が行う『ゾンビ愛護団体総本部強制捜査』に参加する予定はなかった。しかし色々な事情からか、昼担当の対策官でも手が空いているなら参加することになってしまった……という話だ
「ソレのことね。ソレならよくあることだよ。だから冨沢三佐はいつも早く帰ってるんだよ」
中鈴は小牧の話を聞くとそう言った
「よくあることなんですか…… 初めて知りました」
小牧は資料を片付けながらそう言った。すると今度は佐伯が口を開いた
「それなら殺所にもありましたね。強制捜査とかではないですが」
「じゃあ殺所では何を?」
小牧は佐伯を見るとそう聞いた。すると佐伯は手に持っているボールペンを回しながらこう答えた
「私の場合は不審者対応だったわ」
「不審者?殺所にか?」
中鈴はそう言った
佐伯の勤めていた関東ゾンビ殺所場はゾンビを捕らえている場所というだけあって、最新のセキュリティシステムがいくつもあった。なので、ただの不審者対応に勤務外の人を使うというのに違和感があった
するとそんな中鈴の疑問に佐伯はこう答えた
「えぇ。不審者対応と言っても、相手はゾンビ愛護団体の人ですけどね」
関東ゾンビ殺所場では、ゾンビに関する研究が行われていた。なのでゾンビ愛護団体はその研究資料を盗み出そうと、度々人を送っていたのだ
「そういえば、佐伯が殺所にいた頃はまだ愛護団体あったのか。なら納得」
中鈴はそう言うと手を叩いた。そして立ち上がると続けてこう言った
「と、いうわけで雑談はこれくらいにしよう。早く帰らないと巻き込まれるかも知れないしな」
中鈴はそう言うと慌てて机の上に広がっている資料を片付け始めた
「そうですね。これから戦うのは嫌ですからね」
佐伯もそう言うとボールペンを机の引き出しにしまった。そして荷物をまとめると立ち上がった……
東京本部、対策4情報管理課専用室……
「何か分かったことはあるか?」
そう言ったのは林だった。林は『西野原電機強制捜査』の担当になった日に、西野原電機の調査を榎本に頼んでいた。なので林は榎本にその調査の結果を聞きに、この部屋に来ていた
「えっと、どこだっけな」
林の話し相手である榎本は、手帳を取り出すとページをめくり始めた。そして少しすると手を止めてこう言った
「真っ白。何も書いてないわ」
榎本はそう言うと、今開いているページを林に見せた。そのページには『林、電機』としか書かれておらず、その他の部分は汚れもなく綺麗真っ白だった
「つまりそれは?」
林は榎本にそう言った。すると榎本は後ろを向くと「川瀬!ちょっと来てくれ!」と言った。すると奥の部屋から駆け足で川瀬がやって来た
「何ですか?榎本さん」
川瀬は榎本にそう聞いた
「川瀬だよね?西野原電機について調べたのって?」
「えぇ、そうですけど何かありました?」
川瀬は困りつつもそう聞いた。すると榎本はこう言った
「何もないから聞いてるの。西野原電機については何も出てこなかったの?」
榎本は川瀬にそう聞いた。すると川瀬は頷くと「はい。警察が調べたこと以上の情報はありませんでした」と答えた
「林、そう言うことだ。西野原電機についてはこれ以上ないみたい」
榎本は林にそう言った。すると林は「そう。わざわざ調査頼んで悪かったね」と言い、部屋から出ようとした。しかし林が部屋から出る前に川瀬が林のことを呼んだ
「林さん!」
林は突然呼ばれると後ろを向いた
「よろしければこれを……」
川瀬はそう言うと林に茶封筒を渡した。林はとりあえずその茶封筒を受け取ると川瀬に「これは何ですか?」も聞いた
「これは警察が持ってきた情報を紙にまとめたものです。よろしければ使ってください」
川瀬はそう言った
警視庁ゾンビ対策課は数日前に『西野原電機』に関する情報を提供してくれていた。しかしその資料はUSBメモリに入っており、アナログが主流のゾンビ殲滅局では気軽に見ることが出来なかった。なので川瀬はいつでも見れるようにその情報を紙にまとめてくれたのだ
「ありがとう。助かるよ」
林はそう言うと部屋から出ていった
『西野原電機強制捜査』の日まであと六日。色々なところで準備は進んでいた……
朝比奈愛冬
四等監視官(監視官)
常備武器……拳銃




