#209 紙袋
東京本部、対策4情報管理課専用室……
ガチャッ!
榎本は扉を開けると部屋の中に入った。すると及川が今やっている作業を中断し、顔をあげるとこう言った
「もう全員に話したんですか?」
「いや、これからだ。というより林が一人目だ」
榎本はそう言うと林を情報管理課専用室に入れた。そして一応、他の課の対策官がいないか確認すると榎本は手帳を開き、林に見せた
「見な。この情報は上層会議出席者のみ教えて良いと言われてるから」
「あ、そう」
林はそう答えると、榎本が開いているページを見た。そこにはどこかで見て事があるような文字が並んでいた。すると榎本はそんな林にこう言った
「林には少しだけだけど見せたことあるよね?」
「あぁ、一応聞くけど、この数学記号は何?」
林はそう聞いた。すると榎本は手帳を開いたままこう言った
「敵だよ。正確にいうとトランプより上のね」
榎本の言う『トランプ』というのは『エース』や『デュース』などの事を表している
「トランプより上っていうのは強さがってこと?」
林がそう聞くと榎本は及川に向かって「及川、アレ持ってきてくれない?」と言った。すると及川は作業を中断し、奥の部屋に入っていった。そしてすぐに一枚の紙を持って戻ってきた
「これですよね?」
及川はそう言いながら榎本に紙を渡した。すると榎本は「あぁ、ありがとう」と言うと紙を受け取った
「林、これを見て」
榎本はそう言うと及川から貰った紙を林に見せた。なので林はその紙を見てみると、榎本の手帳に書いてあった数学記号とトランプが書かれていた
『エース、デュース、トレイ、ケイト、シンク、サイス、クイーン、アルファ、ベータ、ガンマ、シータ、パイ、デルタ、ナブラ、ノルム、サイン、シグマ、ファイ』
「なんかここに書いてあるトランプ、数が少ないような気がするんだけど……」
林は紙を見るとそう言った。すると榎本は「死んだ奴は書いてないからそれで減ったんだよ」と答えた
「と、いうわけでこれで終わり。戻っていいよ」
榎本はそう言うと紙を及川に渡した。すると及川はその紙を持って再び奥の部屋に行ってしまった
「え?これだけ?」
「うん。これだけだよ」
榎本にそう言われると林は「はぁー」とため息をついた。そして榎本にこう言った
「まぁ、思ってた通りアレな情報だったな」
林はそう言うと部屋を出ようとした。しかしそんな林に榎本はこう言った
「アレな情報って?」
榎本がそう聞いた。すると林は「一回聞いたことある」と言い部屋を出ていってしまった
「あれ?そうだっけ?」
榎本は色々な人と関わっているため、誰に何を伝えたかよく混ざっていた。なので度々このようなことが起きていた。するとそんな榎本に及川がこう言った
「榎本さん」
「ん?」
「今回の件、おかしくないですか?」
及川がそう言うと榎本は「そうか?愛護団体なんて前からおかしくね?」と答えた。すると及川は首を横に振るとこう言った
「そうではなく、何故同時に攻めてこないのか……です」
「え?同時って?」
榎本は訳がわからずそう言った。すると及川は机の横においてあるホワイトボードを取り出した。そしてそこにペンで何かを書き始めた。そして書き終わるとそれを榎本に見せた
「こういうことです」
榎本は及川にそう言われると、及川が持っているホワイトボードを見た。そのホワイトボードには『愛護団体』と『トランプ』そして『殲滅局』の三つが書かれていた
「この二つの共通点は殲滅局を潰すことです。なのに、何故愛護団体がテロ予告しているこのタイミングにトランプは襲ってこないのか…… ということです」
ゾンビ愛護団体がテロ予告をした日から、東京本部は慌ただしくなっていた。なのでトランプ達はいま襲撃したら東京本部に大ダメージを与えることができた
「確かに……奴等から見れば今が絶好のタイミングのはずなのに」
榎本がそう言ったときだった。突然扉が開くと部屋の中に元町が入ってきた
「元町、現在のトランプの動きどうなってるか分かるか?」
榎本はそう聞いた。すると元町は持っていた紙袋を机の上に置くとこう言った
「トランプの動きなら貰ってきた資料に書かれているかと」
元町がそう言うと、榎本は元町が持ってきた紙袋を漁った。そしてホッチキスで止められている資料を取り出した
「けれど、何で榎本さんは急にそんな事を?」
元町は近くにいる及川にそう聞いた。なので及川は先程まで榎本と話していたことを元町に伝えた
「そう言うことですか。確かにいつトランプが動いてもおかしくないですからね」
及川はそう言うと自分の椅子に座った。そして紙袋に入っている資料を取り出し始めた……
小柴万衣子
三等監視官(工作官)
常備武器……拳銃




