#189 予備
冨沢が出ていってから一分も経たない頃だった。突然玄関の扉が開いた。小牧は何かと思い玄関に行くと、そこには冨沢がいた
「小牧、何か武器はないか?」
「武器?」
冨沢に突然そう言われると小牧はそう聞き返した。冨沢が何を見たのか分からないが、様子を見るに何かあったのだろう
「ゾンビがいるんだよ。だから武器ない?拳銃とか槍とか……」
冨沢はそう言った。しかし例えゾンビ対策官でも勤務外では拳銃、槍などの武器を持つことは許されていたかった。なので小牧も突然ゾンビを殺せる武器を持っていなかった
「ないです。包丁ならありますけど」
小牧はそう言うと台所に行き包丁を取り出した
「包丁は無理。使いたくなかったけどコレ使うか」
冨沢はそう言うと荷物の中から短剣をを取り出した
ゾンビ対策官は勤務外のとき拳銃や剣、槍などの殺傷能力の高い武器を持つことはできない。しかし短剣や短刀、クロスボウといった武器は理由がなくても持つことができた
「それじゃあ行くよ」
冨沢はそう言うと短刀を両手に持った。しかし小牧はこれらの武器を持っていなかった
「僕そういう武器持ってないんですけど……」
「まじ?対策官なら常時持ってないと、これ貸してあげる」
冨沢はそう言うと持っていた短刀を小牧に渡した。勤務外に使う武器はゾンビ殲滅局が用意しており、ゾンビ殲滅局に勤務している人なら誰でも持ち帰ることができた。しかしこれらの武器を持ち帰るには班長の許可が必要のため小牧はやっていなかった
「そんじゃあ行くよ。場所はすぐそこの道ね」
冨沢はそう言うと扉を開け飛び出していった。小牧は運動靴をはくと冨沢の後を追って走り出した
「小牧、あそこね」
冨沢は走りながら言った。なので小牧は冨沢の指差す方向を見るとそこには二体のゾンビがいた。そのゾンビはゆっくりと歩道を歩いており、近くにいる人は逃げていた
「左を頼むよ」
「了解です」
小牧がそう言うと冨沢は道路を横断した。そして右側にいたゾンビの首を短剣で斬りつけた。が、ゾンビの首は斬れ落とせなかった
『なんだこのゴミ武器』
冨沢は心の中でそう思った。冨沢の主力武器は刀だ。なので刀から見ると圧倒的に斬れ味の劣っている短剣は使いにくかったのだ
バシュッ!
冨沢の後ろでそんな音がした。おそらく小牧がゾンビを倒したのだろう
『小牧が倒せて俺が倒せないのはおかしい』
冨沢はそう思うと短剣を強く握った。そしてゾンビの喉元に短剣を突き刺した。しかしそれでは殺せないため、短剣を素早く引き抜いた。そしてゾンビの頭に短剣を突き刺した
「やっと死んだか」
冨沢はそう言うとゆっくりと地面に崩れていくゾンビを見た
「これどうしますか?」
小牧は辺りを見ながらそう言った。この場は二人がゾンビを直したため、道路に血と肉片が広がっていた
「予備対策官呼ぶか」
冨沢はそう言うとスマートフォンを取り出した。そして誰かに電話をかけ始めた。小牧が電話から漏れている声を聞く限り、冨沢の話している相手は対策課の誰かだった……
「オッケー!ここに予備対策官来たら帰っていいってよ」
冨沢はそう言うとスマートフォンの電源を切ってポケットにしまった
「予備対策官に後始末やらせるんですね……」
小牧はボソッと言った。すると冨沢は不思議そうにこう言った
「え?普通でしょ?小牧もやらされたでしょ?」
冨沢にそう言われたものの、小牧は予備対策官のとき、ゾンビの片付けをしたことがなかった。正確には訓練としてならやったことはあるが、実際の現場での処理はなかった
「ないですね」
小牧はきっぱりと言った
「小牧、予備対策官のとき何処にいた?」
冨沢は小牧にそう質問した。なので小牧はこう言った
「殺所です」
「まじ?上位勢じゃん」
冨沢は驚きつつそう言った
予備対策官の勤務さきはいくつかあり、その中でも優秀な予備対策官は関東ゾンビ殺所場に勤務していた。といっても殺所では危険な仕事などは一切なく、見回りとゾンビに関することを教えてもらうくらいだった
「でも僕が殺所にいた頃は平和でしたからね。逆に暇でしたよ」
「あんたはいいね。俺は支部の機動隊に配備されてたよ」
冨沢は予備対策官の頃、埼玉支部の機動隊に配備されていた。この機動隊というのは警察の機動隊とほとんど同じような役割をしていた。しかしゾンビ殲滅局の機動隊員はほとんどが予備対策官のため、実力面にやや問題があった
「あの頃は地獄だったね~。任務は辛いわクソ上司はいるわと……」
冨沢はそう言うと近くの壁に寄りかかった。予備対策官が何処から来るのかは分からないが、到着までにはもう少し時間がかかるだろう。なので小牧も同じように壁に寄りかかった……
早坂沙奈
警視庁ゾンビ対策課、巡査
武器……短剣
拳銃




