#184 火炎瓶
ゾンビ愛護団体本部二階、東階段……
パリッン!
床に瓶が落ちるとそんな音がし、粉々になった。そして瓶からこぼれた液体が突然燃えた
「うわっ!」
京谷は突然そう言うと階段から駆け降りた。その声に気付き、何があったのかと振り返ると、階段の下では火をまとった京谷が床に転がりジタバタしていた
「撤退!火を消せ!」
三田村がそう言うと階段の中腹にいた隊員達が駆け足で降りてきた
「どいてどいて!」
そう言ったのは米良だった。米良はどこから取っ手来たのか分からないが、手に消火器を持っていた
「少し我慢して下さいね」
米良はそう言うと消火器を京谷に向け消火剤をかけた。すると威力の強かった火は簡単に消えた
「おい!大丈夫か?」
三田村は倒れている京谷に駆け寄った。しかし京谷は黙ったままで何も言わなかった
「米良は主司令と隊長に連絡!小見山は一階から人を呼んでこい!」
「了解です」
小見山はそう言うと階段を降りていった
はっきり言ってこれは想定外だった。普段から危険な相手と戦っている特殊部隊だが、その相手が使ってくる武器は銃などで、火炎瓶を投げてくる敵はいなかった。なので火炎瓶の対処方法を知らなかった。そしてその結果がこれだ
「これはまずいな……」
三田村はボソッとそう言った。今回の敵はかなり強かった。なので中央階段から攻めている本隊だけで三階を制圧できるか分からなかった
「三田村さんでしたっけ?特殊部隊副隊長の人は……」
突然階段の方からそう言われた。なので階段の方向を見るとそこには小見山と六人の対策官がいた
「えっと?」
あまりに突然だったので三田村はそう言ってしまった。すると三田村が戸惑っていることに気がついた対策官の一人がこう言った
「何をしてるんだ?三階へ行かないのか?」
男性対策官がそう言った。しかし今の三田村班は重傷者が出ており、それどころではなかった。するとその男性対策官の隣にいる女性対策官がこう言った
「仕方ないですね。負傷者は私の部下に運ばせるとして、残りの対策官で三階へ向かいますか」
女性対策官はそう言うと三階への階段をゆっくりと登り始めた
「柚木、この先は危険だ。俺が戦闘を進む」
「いや、有川さんも大した装備じゃないですよね?なら変わらなくないですか?」
柚木はそう言った。すると有川は銃を構えたままこう言った
「少なくとも柚木よりかは痛みに耐えられると思うけど」
有川はそう言うと階段を登り、柚木を追い抜かした。そして階段の中腹につくと銃口を三階の廊下に向け、慎重に登り始めた
「確かにそうですね」
柚木はそう言うと有川のサポートをするために階段を登り、有川の横まで移動した。そして二人で慎重に登り三階に入った
「これは……」
柚木は三階の廊下を見るとそう言った。三階の廊下は血のせいで真っ赤だった。銃や火炎瓶を持った状態で死んでいる人や、かろうじて生きている人。そこはまるで地獄だった
そんな血の海の真ん中に特殊部隊はいた
「有川さん。三階は無事制圧しました。火炎瓶には苦しみましたけどね」
そう言ったのは本間だった。本間を含めそこにいる特殊部隊の人達は皆が返り血を浴びており、まるで殺人鬼のようだった。しかし彼らのしていることはあくまで良いことをした結果である。なのでそこについては触れないようにした
「二階で特殊部隊の一人が倒れてましたよ」
有川は銃を下ろすとそう言った
「それについては把握してます。連絡はもらってますので……」
本間はそう言うと有川と柚木のいる東階段に向かって歩きだした
「何がともあれこれで我々特殊部の任務は終了しました。あとはどうぞ」
本間はそう言うと階段を下りていった。そんな本間を追いかけて特殊部隊の隊員達も急いで下りていった。なのでこの血塗れの三階には有川と柚木、そして柚木の部下の乃木、柳田の四人だけになった
「何かあれですね。こんな光景を見ると色々と複雑っすわ」
そう言ったのは柳田だった。いくらゾンビの死骸を見てきたとはいえ、人の死体を見るとさすがに気分が悪くなる。そして今回の死体はほとんどがグロいことになっていた
「気分が悪い人は二階に戻れ。大丈夫な人だけで三階の作業は行う」
有川が三人にそう言った。すると柚木は「すみません」といって階段を下りていった
「それじゃあ作業をしようか。床は血塗れだから段ボールは階段の中腹に置くように」
有川はそう言うと銃を壁に立て掛けた。そしてポケットから使い捨てのビニール手袋を取り出し、それをつけた
ゾンビ愛護団体本部三階には組織が出来たときからの資料を保管してある資料庫がある。事前の調査でそう分かっていた。なのでこの階の捜査は色々な意味で大変になりそうだと思った有川だった……
三田村義英
二等ゾンビ対策佐官
常備武器……拳銃




