#176 後悔
それからしばらくして、作戦終了後に現場を調べていた有川、小橋班、そして林が帰って来た。小橋班の使う専用スペース林班の隣にあるため、小牧達は嫌でも小橋班の人を見ることになった
「ちゃんと仕事してたか?」
そう言ったのは林だった
「林、死者が出た件について聞きたいんだけど……」
「それは後でな。少しは隣に配慮しな」
林はそう言うと椅子に座った。この対策2にはそれぞれの班に専用スペースが与えられている。しかしこの専用スペースの境目はちゃんと壁で区切られているわけではなく、棚など大きな物で区切られていた。なので声や物音は隣の班まで聞こえてしまうのだ
「明日は休みだからレポートは今日中に終わらせてよ」
「はいはい把握っと」
冨沢はそう言ったものの特に作業はせず、窓から外を見ているだけだった
「小牧、悪いんだけど榎本にこれ渡してきてくれない?」
そう言ったのは林だった。榎本のいる場所は対策4の情報管理課で、林と一緒に言ったことがあるので場所を覚えていた
「構いませんよ。榎本さんですね」
「そう。よろしく頼むよ」
林はそう言うと小牧に数枚の紙を渡した。その紙には今日行われた「日の入町役場強制捜査」についてのものだった。しかしこの紙はいつもの資料とは違い、あまり書いてなく内容も薄かった
「あ、それあくまで現場で書いたメモ的なやつだから字が汚かったりとかは気にしないで」
「分かりました」
小牧はそう言うと対策2専用室から出ていった。小牧は対策4専用室に向かう途中、林の書いたというメモを見た。そのメモには西原についてこう書いてあった
『逃走した男が所持していた拳銃を撃つ。小橋班所属の西原に命中。弾が顔面に当たり即死したもよう』
小牧はそれを見ると次の紙を取り出した。しかしそこには作戦後の事しか書かれておらず、西原が撃たれた直後のことは書かれていなかった
「男は確保した……か」
小牧はボソッとそう言った。小牧は林班に配属されてからはほとんど話していなかったものの、予備対策官のときは西原と仲が良かった。そんな西原が突然死に色々と複雑だった
「あれ?君は確か林の……」
突然前からそんな声がした。なので顔をあげるとそこには榎本がいた
「榎本さんどうしてここに?」
小牧はそう言った。すると榎本は壁を指差してこう言った
「どうしてと言われてもここが仕事場だからね」
榎本の指差した壁には「対策4情報管理課」と書かれた紙が貼ってあった。小牧は林のメモを読んでいる間に目的地についていたのだ
「あ、もう着いてたんですね。ボーッとしていたもので」
小牧はそう言うと苦笑いをした
「んで君がここに来たのには理由があるんでしょ?例えば林に頼まれたとか……」
「はい。林二佐に頼まれまして、榎本さんにと」
小牧はそう言うと榎本に数枚の紙を渡した
「ありがとう」
榎本はそう言うと紙を受け取った。そしてその紙をサッと見ると小牧にこう言った
「悪いんだけど林に言伝を頼めるかな?今さっき有川さんから聞いた情報だから林も知らないと思うし」
「構いませんよ。その有川特官から聞いた情報とは何ですか?」
小牧は榎本にそう聞いた。すると榎本はポケットから手帳を取り出し、あるページを開くとこう言った
「林達の捕まえた男性は病院にて死亡が確認された。そしてこの男性の所持していた手帳に『ベクトル』と書かれていた。と伝えておいて」
「その林二佐が捕まえた男性というのは西原を撃った人ですか?」
小牧は榎本にそう聞いた。すると榎本は手帳を見たままこう答えた
「そうだよ。その男性は西原対策官を撃った直後、小橋班の菊川対策官に撃たれた。そのときの当たりどころが悪かったらしいよ」
榎本はそう言うと手帳をポケットにしまった
西原を殺した男性は対策官によって射殺されていた。しかし男性が死んだことで西原が生き返るわけではない。なので榎本からそう聞いた小牧は何て言ったら良いのか分からなくなってしまった。するとそんな小牧に榎本はこう言った
「俺は五年前「上野公園新平地作戦」に参加し、当時の上司や同期を亡くした。そして当時のことは今でも夢に出てくることがある…… 西原という対策官。小牧と仲が良かったよな?」
突然榎本はそう聞いてきた。なので小牧はとっさに頷いた。すると榎本は小牧に一冊の手帳を渡した
「これは?」
小牧はその手帳を受け取ると榎本にそう質問した。するも榎本はこう説明した
「その手帳は西原対策官が亡くなったときに持っていたもので、中に写真が入っていてな。だからこれは小牧に渡すべきだと判断しただけだ」
小牧はそう聞くとその手帳を開いた。すると中から一枚の写真が飛び出してきた。その写真は静かに床に落ちた
「これは……」
小牧はその写真を取ろうとしゃがみこんだ。その写真は予備対策官の時に撮ったものだった。と言っても勤務中のものではなく、休日に二人で遊びに行ったときに撮ったものだった
「多分林班の人は西原対策官の死についてほとんど触れないはずだ。だけどそれは悪気があるからじゃないということは分かってあげてくれ」
榎本は小牧の肩を両手で掴みながらそう言った。本来はここで「はい」といって立ち去るべきだろう。しかし色々とあり混乱していた小牧は榎本にこう言ってしまった
「でも林二佐や冨沢さん達は塚西さんが亡くなったときにも全く悲しんでいませんでした。塚西さんは同じ班だったのに……」
小牧がそう言うと榎本は少し間を開けてからこう言った
「いや、少なくとも林は悲しんでいたよ」
「え?」
「東京駅攻防戦後に林と飲みに行ったんだ。その時林は色々と話してくれたよ。ほとんどが後悔だったけどね」
いつも真面目に仕事をして、的確な指示を与えていた林にそんな一面があったことに驚きだった。そしてそれと同時に林も落ち込むことがあるのだと知った
「さて、俺はそろそろ仕事に戻るけど良いかな?」
「あ、はい。林二佐に伝えておきます」
「それじゃ」
榎本はそう言うと情報管理課の部屋に入っていった
林や冨沢、中鈴は決して塚西の死を軽く見ていた訳ではなかった。ただ表で悲しんでいたわけではなく、自分の知らないところで悲しみ後悔していたのだった
『林二佐に聞くのはなし。この事については触れないようにしよう』
小牧は心の中で強くそう思うと対策2専用室へと歩きだした……
榎本伊織
准高製作官
武器……拳銃




