#175 仲
「絶望的に疲れたー!」
そう言って席に座ったのは冨沢だった。すると中鈴は冨沢にレポート用紙を見せながらこう言った
「作戦後の資料製作をお忘れなく」
ゾンビ殲滅局では資料など全てが紙である。なのでその資料を作るのはとても面倒で、人によってはゾンビと戦うより苦だったのだ
何故他の機関は電子化されているのにゾンビ殲滅局だけアナログなのか。それはゾンビ殲滅局がゾンビを相手にしている機関だからだ。もしゾンビが都道府県、地方レベルで人間の住んでいる土地を占領した場合高確率で電子機器は使えなくなる。その場合、電子化されていると過去の資料等を見れなかったりとゾンビ殲滅局が活動できなくなる可能性が出てくるのだ。なのでそれを防ぐためにゾンビ殲滅局は電子化されていないのだ
「しかし都道府県レベルの広さをゾンビに取られる訳ないと思うんだけどなぁ」
冨沢はそう言いながら椅子に座りながらクルクルと回転していた
「あくまで殲滅局が麻痺しないようにの保険ですから、あまり深く考えない方が良いかと」
中鈴はそう言った。今のところ都道府県、地方レベルでゾンビに領土を取られたことはない。なのでこのシステムが役に立ったことは一度もなかった
「そういえば林二佐、何で現場に残ったんでしょうね」
そう言ったのは小牧だった。班長は他の人と違い仕事量も多かった。とはいえ班長だけ現場に残って他の班と作業するという仕事はなかった
「確かに何でだろうね」
「誰よりも早く車に乗り込んだ貴方も知らないんですね」
中鈴は若干皮肉要素を入れつつ冨沢にそう言った。しかし冨沢は馬鹿にされているとは気付かずこう言った
「まぁ俺は早く帰りたかっただけだし……まぁ林の都合ってとこでしょ」
冨沢はそう言うと再び椅子をクルクルと回し始めた。確かに林二佐はこの班で誰よりも知識があり、意味のない行動はしない。なので今回も何かしらの意味があるのだろう…… と小牧が自己完結したときだった。突然こんな声が聞こえた
「班長は休憩スペースに集合!班長がいない所は代表者一名が来ること」
その声は対策2にある放送機器を指示が出されていた。あの滅多に使われない放送機器が使用されているということは、余程のことが起きたに違いない。冨沢はそう考えると小牧達に「資料製作は頼むわ」と言って休憩スペースに行ってしまった
「上手くしてやられたな」
「ですね」
小牧はそう答えると冨沢の机の上にあった資料を取った。と言っても冨沢はまだ手をつけていなかったので、ただの真っ白な紙だった
「小牧、少し手伝おうか?」
そう言ったのは佐伯だった。冨沢の残していった仕事は紙にして十五枚ほど…… かなりの量を残していったので割りと困っていた。なので佐伯が手伝ってくれるのは小牧にとってかなり大きかった
「ありがとう。このくらいできる?」
小牧はそう言うと紙を三枚渡した
「余裕だよ。殺所にいた頃はほとんど資料作る作業してたから得意なの」
佐伯は殺所にいた頃色々な事を体験してきた。その中にはやや触れづらい物もあり、小牧は返答に困りつつも「あぁ……そうなの……ね」と言った
「水を差すようで悪いんだけど、その作業やらないでね。冨沢三佐の仕事だから」
「あ、はい」
林と中鈴は自分の仕事は絶対に自分でやれという考えを持っていた。なので冨沢の仕事を小牧と佐伯にやらせたくなかったのだ
「あとで悲しいことになる気が……」
「良いの良いの。それなりに冨沢三佐とはいるから分かるけど、会ったときからそんな感じだったし」
中鈴はそう言うと作業に戻った。中鈴が冨沢と初めて出会ったのは今から二年前。班移動となり林班にやって来たときから冨沢は副班長としていたのだ
「では置いておきますね」
小牧はそう言うと冨沢の机に紙を置いた。そして自分の作業を始めようとしたときだった。この林班専用スペースに冨沢が駆け込んできた
「大変だ!」
「どうしました?冷凍庫にいれていたアイスでも無くなりましたか?」
中鈴は作業をしたままそう言った。しかし冨沢はいつもみたいに冗談で返さず、みんなにこう言った
「さっきまでいた役場で小橋班から殉職者が出たみたい」
「え?」
そう言ったのは小牧だった。何故なら小牧班には同期である西原がいた。なので小牧は落ち着いていられなくなり、冨沢にこう聞いた
「誰だか分かりますか?」
「確か西原二等って言ってたよ。今期からの人だったみたいで……」
冨沢からの解答は一番聞きたくないものだった。小牧は西原とは同じ場所でゾンビに対する知識を学び、予備対策官のときは同じ班に所属していた。なので西原とは仲が良かったのだ
「知り合いなの?」
そう聞いたのは佐伯だった。佐伯は予備対策官時代を殺所で暮らしていたので西原のことは知らないのだろう。なので小牧はこう説明した
「西原とは予備対策官の時からの仲でね。なんか……」
そのあとは何て言えば言いのか分からなくなってしまい、言葉はそこで途切れてしまった
「小牧、対策官をやっている以上仲間の死は耐えなくてはならない。あとは分かるな?」
中鈴は小牧にそう言った。多分悲しむのは良いが、仕事に支障を出すなという意味だろう
中鈴対士長は「東京駅攻防戦」で塚西さんを、冨沢三佐は「ZN建築株式会社ゾンビ殲滅作戦」で埼玉支部の仲間達を、林二佐は「上野公園新平地作戦」で仲間を、そして佐伯は「関東ゾンビ殺所場爆発事件」で仲間を多く失ってきた。それに引き換え小牧は仲間を失うのは今回が初めて……
『そう言えば何で塚西さんが亡くなったとき僕は悲しまなかったんだろう?』
小牧は心の中でそう思った。小牧は仲の良い人を失うのは初めてではなかった。今年の八月に塚西を失っていたのだ。しかしそのとき林や冨沢、中鈴は塚西が殉職しても全く悲しんでいなかった
『対策官とは人の死をこんなにも簡単に扱うのか?』
小牧はそう考えた。しかしもしかしたら裏で何かが起こっているのかも知れない。そう考えた小牧は後で林にこの事を聞いてみることにした……
冨沢学
三等ゾンビ対策佐官
武器……刀
拳銃




