#174 複雑
「今の銃声はなんだ?」
そう言って資料庫の前にやって来たのは有川だった。有川はその資料庫を見ると一瞬固まってしまった
「秋津!これ使って呼べ!」
有川はそう言うと部下に無線機を投げ渡した。そしてすぐに倒れている男性に近寄った
「鼻先から貫通……即死か……」
有川は血塗れになっている男性を見てそう言った。すると小橋は有川にこう言った
「中に入るには向こうの入り口からお願いします」
小橋がそう言うと菊川は資料庫のもう一つの扉を開けた。なので有川はそちらの扉から資料庫に入った
「小橋……」
林は何か小橋に言いたかった。しかし上手い言葉が思い付かずそこで終わってしまった。すると小橋から林にこう言った
「林が部下を失った時もこんな感じだったの?」
「え?」
林は東京駅攻防戦で部下を失っていた。しかしその時と今では状況が違う。林のときは死因はゾンビに襲われたこと。そして遺体が発見されていないので、もしかしたら生きているかもという可能性があった
しかし小橋の場合は違った。小橋の部下は人によって…… しかも遺体が目の前にあったのだ。なので林の時とは比べ物にならなかった
「小橋班は本部に戻っていい。あとは任せろ」
有川はそう言うと資料庫の外へ小橋を押し出した
「菊川、小橋を頼んだよ」
「了解です」
菊川がそう言うと有川は資料庫の扉を閉めてしまった。しかしもう一つの扉は遺体があるため閉めることができなかった……
「班長!」
突然そんな声が聞こえた。なので菊川はその声のする方を見るとそこには双葉がいた。双葉は小橋に話しかけようとしたが、小橋に話しかける前に菊川がこう言った
「ダメです今は」
「え?何があったんだ?」
先程起きた事情を知らない双葉は菊川にそう聞いた。なので菊川は小橋に聞こえないように耳元でこう言った
「西原が撃たれまして……」
双葉はそう聞くとすぐに辺りを見回した。すると廊下に赤い液体が垂れているのが見えた
『血なのか?』
双葉はそう考えると確かめるためにその赤い液体のある所に近寄った。すると双葉はそこで見たくないものを見てしまった
「ここで……」
そこは西原が撃たれ、亡くなった場所だった。西原は顔面を撃たれたため顔はぐちゃぐちゃになっていた。なので菊川が「西原が撃たれた」と言わなかったら誰が倒れているのか分からないほとだった
すると双葉がいるのに気がついた有川は双葉にこう言った
「双葉、菊川には言ったが小橋班は本部に戻れ。あとはやるから」
「分かりました」
双葉はそう言うと小橋達のいる所に戻った。はっきり言って今の自分の気持ちが分からなかった。少し前まで話していた部下が突然死に何とも思わないというわけではない。ただ本当に死んだのかという疑いの方が強かったのだ
「双葉、菊川、それに班長。まずは本部に戻りましょ。ここにいても意味がありません」
そう言ったのは星水だった。普段は小橋班で誰よりも考えずに行動している星水に、そんな事を言われるなんて思ってもいなかった。なので双葉と菊川は少し驚いていた
「みんなすまない。早く戻ろう」
この重い空気のなか言葉を発したのは小橋だった。小橋は遺体の前を通らない別の階段へと向かって歩き始めた
「二人も行くよ」
星水は二人にそう言うと小橋のあとを追って行ってしまった。しかしそれでも二人は現場を離れようとしなかった。小橋と星水が階段を下り始め、二人から見えなくなると菊川は双葉にこう言った
「私は双葉准官のように守れなかった。そして……」
「もういい。それ以上は」
双葉はそう言って菊川を黙らせた。そして続けてこう言った
「西原の事は分かった。それより西原を撃ったやつはどうなったんだ?」
「え?」
菊川はそう言うとどうしたか思い出そうとした。しかし西原が倒れるのと同時に、引き金を引いた所までしか覚えておらず弾が当たったかどうかすら分からなかった
「菊川、仲間を死なせたくないなら技術面を強化しろ。そして二度とこのような事が起きないようどうしたら良いか考えろ。そうするだけで結果は変わる」
双葉はそう言うと階段を下りて行ってしまった……
菊川は遠距離狙撃戦のとき双葉に助けられたことがあった。なので双葉のように部下を守れる対策官を目指していた。しかし今回の事があったので何と言えば良いのか分からないことになっていた
「技術、そして反省…… 経験を積むといってもこれは……私が立ち直れるか分からない……」
菊川はボソッとそう言った。経験を積むのは大切で、誰だって失敗をする。この言葉は色々な人から聞いてきた。けれど私の経験のために西原が死ぬのはおかしい。菊川はそう思いながら階段を下りていった……
菊川凜
ゾンビ対策士長
武器……火玉銃
拳銃




