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Ⅳ.友人

 今日の講義が全て終わり、ボクは大学内のベンチに座っていた。

 木陰の下に設置されたベンチ。耳にはめたイヤホンから流れてくる音楽を聴きながら、そこから何の気もなく木漏れ日を見つめる。そうしているとなんだかうとうとしてきて、いっそのこと意識を手放してみようかと思ってしまう。

 その時、不意に肩を叩かれた。イヤホンを外しつつ振り向くと、木崎真琴が笑顔でそこに立っていた。ボクはここで彼女と待合せをしていたのだった。


「お待たせ」


 真琴はデニムワンピース姿で、ショルダーバックを斜め掛けしていた。


「何聴いてたの?」


 そう言って真琴はボクの隣に座る。


「ピアノ曲」

「ピアノ、好きなの?」

「うん、まあ」

「じゃあ弾けたりもするの?」

「ううん、全然。聴くのが好きなだけだよ。詳しいわけでもないし」


 音色が好きというか、ただそれだけ。この曲は誰々が作曲したとか、あの曲は何年の曲だとか、そういう知識的なものは知らない。

 ピアノの音色を聴いていると落ち着くし、考え事をする時なんか集中させてくれるし。そういう意味でピアノ曲が好きというだけの話。


「そっかあ。私はあんまり聴かないなー」

「真琴はどんな音楽が好きなの?」

「J-POPとか、普通のやつ」

「そっか。最近の曲はわからないな。ちょっと前の曲ならわかるんだけど……」

「そんな感じする」

「どういう意味かな?」

「冗談だって」


 笑う真琴に、ボクも笑い返す。

 こんな風に誰かと笑えあえる。ささやかだけれど、それが幸せなことだって。二年前までのことを思えば、そう感じられるようになった。きっとこれからはこんな風に幸せな日々を続けて行ける。もうあんな"怪物"に怯えずに生きていける。だってもう、あいつらはここにはいないのだから。


「さて、どこに行く?」


 しばらく雑談したあとで、そう切り出した。なんとなく答えはわかっているけれど。


「うーん……新しくできたショッピングモール!」

「そう言うと思ってたよ」


 予想通りの答えにちょっと笑ってしまう。


「え? なんでわかったの?」

「この間、行きたいって言ってたでしょ?」

「あれ? そうだっけ」

「そうだよ」

「えへへ」


 ボクたちはゆっくりとした足取りでバス停へと向かう。

 門を出て、道路を渡って、何事も無くバス停にたどり着く。バス停にはボクたちのようにバスを待つ学生らしき人たちが何人かいた。

 本を読む人、数人で話す人たち。そして最近出た腕時計型のホログラフィ式携帯を弄る人。いろんな人がいた。

 一般的にホログラフィ式携帯は珍しくはない。ボクが持っている携帯もホログラフィ式だ。ただ今までのホログラフィ式携帯は画面だけがホログラフィとなり、操作は端末に設置されたタッチパネルのようなタッチパッドのような……そういうものでしないといけなかった。

 パソコンはレーザー投影式キーボードとホログラフィを合わせたもので、随分とコンパクトになっている。だが携帯となると手に持って操作するためレーザー投影式キーボードは使えない。だから今までは少しだけ不便ではあった。

 それがここ最近、ホログラフィ画面をタッチパネルのように触って操作できる技術が完成した。結果、携帯もまた腕時計のようにコンパクトな物となった。

 こうなってしまえばパソコンなんていらないんじゃないかと思ってしまうが、それとこれとはやはり話が違うのだ。

 そうこうしているうちにバスがやってきて、バス停へのベンチに座っていた人たちが腰を上げ始める。ボクたちもバスへ乗り込む準備をする。やがて扉が開き、列についてバスに乗り込んだ。

 無人のバスには運転席はなく、料金支払い機だけがポツンと設置されている。そこにある小さなパネルに携帯をかざし、チャリンという音がしたのを確認して、座席の方へと向かう。


「席空いててよかったね」


 座席に腰を下ろしたところで、同じようにボクの隣に座った真琴が言った。


「そうだね。あんまり混んでないし」

「うん」


 しばらくして扉が閉まり、不意にちょっとした浮遊感がやってくる。そしてバスが静かに走りだした。

 バスにはタイヤという物はなく、静電気によって僅かに地面から浮いて走行する。だから走行直前はちょっとした浮遊感を味わうことになる。だけど走行中は音も静かであまり揺れないため、バス酔いする人は少ない。

 そんなバスに乗って、ボクと真琴は駅を目指す。

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