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Ⅰ.失恋

「お前のことが好きだ! 俺と付き合ってください!」


 そんな言葉を聞いた。

 ボクは建物の影から拓海とアリスの様子をこっそり窺っていて、けれど拓海の言葉に声を漏らしそうになった。瞬間、目頭が熱くなるのを感じた。つうっと、何かが頬を流れる。その正体を知りながら、ボクは静かにその場にしゃがみ込んだ。立ち続ける事も、涙を拭うこともできない。それほどまでの悲しみが心の奥から身体全体を駆け抜けた。

 アリスの答えは知っていた。だって彼女も拓海のことが好きだから。


「……わ、わたしも。わたしも拓海のことが好き」


 ほらね、思った通りだ。……ああ、なんだか胸が痛い。痛くて痛くて、苦しい。

 泣き叫ぶのを必死に堪えた。こんな姿誰にも見せたくない。だから二人に気がつかれないように、必死に堪えた。涙は止まらず、次々と零れ落ちてくる。それだけは堪えることができない。


「じゃ、じゃあ!」

「う、うん。……こ、ここ恋人になってあげる」


 聞きたくもないのに、拓海とアリスの会話が聞こえてくる。


「本当か? 本当に本当か!?」

「そ、そうだって言ってるでしょ!」


 なんで、なんでアリスなんだ。あんな偉そうで照れ隠しに暴力ふるってきて、そのくせ素直じゃないあんな子なんだ。

 ……素直じゃないのは、ボクも同じじゃないか。


「やった!」

「ちょっ、ちょっといきなり抱きつかないでよ……」


 満更でもない言い方して。ああ、ムカつく。……悔しい。

 早くあっち行けよ。二人でイチャイチャしながらどっか行け! もうボクの前から消えてよ!

 そんな思いが通じたのか、二人が離れていく足音が聞こえた。遠ざかっていく。ボクを置いて、拓海が遠くへ行ってしまう。嫌だ。嫌だ、嫌だ。行かないでよ。ボクの傍にいてよ! ボクと、ボクと一緒に……。

 そして、二人の気配はなくなった。

 ボクは堪えていた泣き声を吐き出した。



 ……ああ、これが失恋したっていう気持ちなんだ。

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