カネドウ ミナト その2
「ま。んで、そのカネドウなんとかさんを捕まえて、この、カプソだっけかの秘密を聞き出す為に、ここまで来たわけよ」
目の前にいるけどな、本人が。
そう思いながら、そのザクとやらに少し興味を覚える。
信ぴょう性に欠けるが、どうやってカプソの存在と、オレの存在を結びつけたのか知りたいと思った。
「それで、オレに聞きたい事とは何だ?」
「ああ、そうだった。そんで、そのザクちゃんと離れちゃったわけよ。あのバーに行ったっきり、どうしてんのかわからねぇ」
男は、ゆっくりと、壁にもたれるように座った。どうやら、足が動かせるようになったようだ。
「なるほど。そのバーで酒を飲み、意識を失ったというわけだ」
東の入口。
入口に入った者には、意識を失わせ、カプソに入るときのルートを知られないようにする。
カプソに入った者が、地上に出る時も同様。
そして新参者は、入口から2つ下の階に集められ、カプソ内の簡単な説明を受けるはずだ。
しかし、何故この男は今、こんな所にいる?
「お前、バーで何かしたのか?こんな離れたところに置いて行かれるなんて」
「何かしたって何よ?オレはただ、可愛い女の子と話してただけなのに」
「女?・・・その女はどんなヤツだった?」
そう聞き返すと、男は不思議そうな顔をして答えた。
「どんなって普通に可愛い子だったな。黒髪で、赤いリボン付きカチューシャして、服は迷彩柄のつなぎだったけど」
・・間違えない。
ユウカだ。何故アイツがここに?
1度出て行った者は、2度とカプソに入る事はできない。これは絶対のルールだ。
ユウカは、2年前、出て行ったはず。
まさか、ユウジが入れたのか?いや。アイツがそんな事をするわけがない。
「ま。そゆことで、バーに行きたいんだけど、連れてってくんない?」
そう言って、床に散らばったコーラを開けて勝手に飲み始める。
「断る。どんだけ遠いと思ってんだ。それに、そのザクてヤツもおそらくもういない。ユウジもな」
「いないって、じゃあザクは今どこにいるんだ?」
「さあな。まぁ、カプソ内にはいるだろう。バーから近い所だと東ブロックにいる、と言いたいところだが、お前がこんな所にいるのを見ると、断言できないな」
「マジかよ。どうすりゃいいんだオレは?」
男は髪の毛をわしゃわしゃとかき混ぜながら、ため息をついた。
「そもそも、このカプソってのはいったい何なんだぁ?」
カプソ。
数年前、初めて、この場所を見つけた時は目を疑った。
途方もなくでかい穴。
現代の技術全て使っても到底掘れるとは思えない、巨大な穴。それは、遥か地下まで続いていた。
ザクというヤツは、オレがここを造ったと思っているらしいが、厳密には違う。
オレは、もとからあったこの場所に、建物を入れただけにすぎない。本当にすごいのはこの穴だ。
自然にあったものなのか、人間が掘ったものなのかはわからない。
そして、この穴は先が見えない。どれだけ進んでも穴は続いている。
まるで巨大なカプセルのようだ。そう思ったオレは、ここをカプソ、と名付けた。
「ここは、色々と、謎が多い場所だ。お前もここに来た以上、最低限のルールくらいは知っておけ」
「ルール?何だソレ」
「ルールを破れば、問答無用で地上に送り返される。言っておくが、1度地上に出たら2度とここへは戻って来れないからな。あとはマミにでも説明してもらえ」
オレは、コーラの入った段ボールをかかえて、立ち上がった。
「マジかよ。もしそうなったらザクを探せなくなるじゃん、ておいっ!まだ話はおわってねぇぞ」
またジャージの裾をつかまれそうになったが、紙一重でよける。
「チッ。ったくオレはどうすりゃいいんだっつの」
「とりあえず、カプソ専用のネット掲示板で情報を集めるんだな」
「掲示板?つかここネット使えんのかよ!じゃあ携帯も、てあれ?オレの携帯っ」
男はポケットをごそごそとあさりだす。
「勘違いするな。使えるのはカプソ専用のものだ。地上のものが使えるのはバーのある所までだ」
「何だよ。携帯で連絡取れると思ったのに。ておい、待て待て!」
「るせぇな。あとはマミに聞けって言っただろ。オレは忙しいんだ」
はぁ、これでやっと帰れる。
コーラを取りに来ただけなのに、とんだ迷惑だ。
しかし、ユウジの事が気になるな。そしてユウカの事も。
後で連絡取ってみるか。
そう思いながら、部屋を出た。