縫い目
「お前っ、その目っ・・・・」
オレは3人が固まっている間にサングラスを拾い、かけ直した。
「コレか?オレには生まれた時から左目がなかった。別に病気とかじゃねぇ」
オレは淡々と答えると、ソファに深くもたれかかった。
「その目、中身ねぇのか!?マジかよ」
固まっていたマーチが、ミドウの隣のイスに腰かけながら言った。
「ああ。この縫い目は、兄貴がやったものだ」
「兄貴?虐待でもされてたのか」
ミドウもイスに腰かけ直し、オレの目をまっすぐに見つめる。
「いいや。その逆だ。兄貴は、オレを助けようとして、コイツをやった」
そう。兄貴は、オレを助けようとした。
「オレは小せぇ頃からこのないはずの左目で、変なものをみた。町を歩いていると、存在しないはずの建物の輪郭が、青白い線で見えるんだ。地下に」
「地下に建物~?何だそりゃ。不思議パワーか?」
マーチがちゃかすように言う。
「まぁ、そんなものだ。見えるだけで、実際にその場所に行く事は、今までは、できなかったが」
「へぇ~、んで?それと目の縫い目と、何の関係があるんだ?」
「ああ、それは話すと少し長くなる。それよりも、喉かわいたな」
そういや、バーガーショップでは何も飲まなかったな。
「そういえばそうだね、じゃあ、先に飲み物頼もうよ。オレ、あのバーテンのとこ行ってくる」
そう言うと、突然ミドウが席を立った。
「あ。じゃあオレは~さっきのやつで」
「・・・・・・コーラ」
「え?ハックもコーラ?」
ミドウが振り返り、意外そうにハックを見る。
「いっつも、酒なのにどうしたの?」
「・・・・・別に」
ハックはちらりとオレを見て、ぼそりと答えた。
「まぁ、いいか。じゃ、行ってくる」
バーカウンターへ向かっていくミドウの後ろ姿を見て、そういえば、エイトもカウンターの方へ行ったなと思い、ふと、エイトの姿を探してみた。
あれ?アイツ、いない。
どこ行ったんだ?
あたりを探してみるが、エイトらしき姿は見つからなかった。
トイレでも行ってんのか?そういや、あのカウンターにいた女もいないな。
「チッ、アイツまさか」
女とトイレにしけこんでるんじゃねぇだろうな?
ありえるが、こんなとこまで来てヤルかよ普通。
そんな事を考えていると
「んで?ザクは何でこんなとこに来たんだ?」
マーチが興味津々という様子で、こっちを見てきた。相変わらず、前髪が長すぎて、顔がよく見えない。
「ここに来たのは、まぁ、さっきの話が関係ある」
「ああ、目の話~?いや。でもすげぇよなソレ。見た時ビビった」
「お前等は、何でここへ来た?3人共もとからの知り合いなのか?」
「ん~?オレ等?オレとハッちゃんは結構前から、一緒にいんだけど、ミドウとは会ったばっかだな~」
意外だった。3人ともかなり仲がいいように見える。しかし、言われてみれば、この2人とミドウは、どこか雰囲気が違う。
「そうそ。確か1ヶ月くらい前だったっけ。オレがちょっと喧嘩してる時に、ミドウが通りかかって、なんか酒おごってくれるって言うから、ついていったら話はずんで、つるむようになったてわけ」
「んで、ここに来たのは、ミドウに誘われたからだな。変なメールがきたっつって」
「よく来る気になったな。あんなのを読んで」
「まぁ~すげぇ怪しかったからなアレ。でも、ミドウが本気で行くっつったから、面白そうだと思ってさ」
そう言って、腕を伸ばし欠伸をする。
それなら、ハックもマーチ同様、面白半分で来たということだろうか?
ちらりとハックを見てみると帽子を目深にかぶり、腕を組んでソファに沈んでいた。
眠っているのか?
帽子を上げようと、手を伸ばしてみる。
「・・・・何?」
腕をつかまれた。ハックは顔は変わらず下を見ながら、腕だけを動かす。
「いや、悪ぃ。寝てんのかと思って」
ハックは無言で腕を離すと、それ以上答えなかった。
無口なやつだ。
「やぁ~お待たせ~」
ミドウがトレイに酒のボトルと、コーラの瓶をのせてもってきた。
「はいこれ、コーラね」
オレとハックの前に瓶を置く。
「んで、これがマーチの」
「サンキュー」
全て置き終えると、トレイをテーブルに置き、席につく。
「何だコレ?本当にコーラなのか?」
ひとくち飲んでみると、不思議な味が広がった。
こんなコーラは飲んだことがない。
「ん?ちゃんとコーラ頼んだけど」
ミドウが酒をグラスにつぎながら答える。
「そーいやーここの酒って、飲んだことない酒ばっかだよなぁ。でもすげぇ美味いの」
マーチはボトルから直接飲みながら、舌なめずりをした。
「確かに美味いな」
ミドウも同意する。
ハックは相変わらず無言で飲んでいた。