青の部屋
1つは、スニーカーの、もう1つは、重いブーツ音。
静かな空間に2つの足音が響く。
「誰もいなくね?」
耳のピアスをいじりながら、きょろきょろ見回し、エイトが口を開く。
「ああ。だが場所はあっているはずだ」
携帯のメールを見ながら何もない狭い空間を進む。
バーガーショップを出た後、メールの地図を頼りにここへ来た。
入口は、どこにでもありそうな、女物の服屋だった。店員の香水臭い女にメールを見せ、店の奥にある荷物置き場の様な部屋に通されると、段ボールの下の床に、小さい隠し扉があった。
扉を開くと、中には白い階段があり、そこを降りると、青白く光る狭い廊下があらわれた。
そして、その廊下を、オレ達は、役5分ほど歩いている。
「このせめぇ道、どこまで続くんだ?オレ足つかりた~」
ニッカポッカの様な、ぶかぶかなパンツをはいた足をだるそうにひきずりながらエイトが愚痴る。
「もうすぐ階段があるはずだ」
メールの地図では、ここら辺で、さらに下へと続く階段があり、そこに部屋があるとかいてある。
「まじでぇ?よかった。なぁ、今更だけど、ほんとに来てよかったのかぁ?あんな噂信じてのこのこ来ちまったけど」
ちらりと、エイトの方を見ると、いつもの眠そうな半目に少し、不安そうな色が浮かんでいた。
「本当に、今更だな。確かにうさんくさいが、行ってみないことにはわからない」
「そうだねぇ・・・あ。階段はっけん」
唐突に、階段があらわれた。白い階段を降りていくと、四角い空間が現れた。そこに、受付カウンターらしきものがある。そこに、女が1人立っていた。
紺色のスチュワーデスのような服を着た、綺麗な女だった。
女はこちらを向くと、笑顔を向けた。
「いらっしゃいませ。お客様。今回はどのようなご用件でしょうか?」
オレは、メールを開いた状態で携帯を、女の目の前にかざした。
「ああ。はい。わかりました。2名様ですね。ここにご署名をお願いいたします」
「署名~?て名前か。これって本名じゃないとダメなの?綺麗なおねーさん?」
左手で女の髪に触れながら質問するエイトを気にするでもなく、女は笑顔で答えた。
「いいえ。本名でなくてもかまいません。呼び名があれば、それでいいのですから。ただし、一度書かれた名前は変えることができませんので、ご了承を」
「だってさ。何にする?」
オレは紙にザク、と書いた。
紙を覗き込んだエイトは、じゃあオレも~と言いエイト、と書いた。
「はい。ありがとうございました。では、どうぞこちらへ」
女はカウンターの奥にあるガラスの扉をひらいた。