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巫女の目覚め

 瞼を開くとそこはまだ暗闇が広がっていた。今どこで何をしているのかまったくわからない。しかし嗅覚を刺激する花の甘い香りがその場所には漂っていることがわかった。

同時に手を前へやってみるとすぐに壁らしきものが指先にひんやりと伝わるのを感じた。


「えっと……なにこれ」

 

 しばらく何も見えない空間でもぞもぞと動いて状況把握を計ってみたところ今私の陥っている状況について少しばかり理解できた。私の周りには少なからず薄いのか厚いのかわからない壁があり足を曲げることも手を伸ばすことも出来ない。しかし寝心地はそこまで悪くなく、ふんわりとした何かが私の下に敷かれている。まるでソファーのような材質の物で出来ている。さらにはさっきから香っている花の香りは私の身の回りにぎっしりと敷き詰められたかのようにしておかれている花から発せられたものだとわかる。しかし指先で確認したところ花にはもう既に艶が失せ、しおれている様子だった。そういったことから私はこの場所の推測を立てた。あたってほしくは無いが、あたっていれば最悪の状況に立たされていることはまず間違いない。私はさらに周りの形状を確認し思いっきり上の壁を手でおしてみる。けれど動く気配が一切無い。


「……間違いないわ、私今棺桶の中に入ってる」

 

 花の香りもさることながら背中を包み込むソファーのような感覚、さらに徐々にその場の空気が薄くなっている事を考えると自分の置かれた状況と今の体があの時の彼女の物だとすれば、彼女も私もあの時点で死んでいて、今の体は彼女の体で、時間がどれほどたったかは知らないけれど、間違いなく彼女以外の人間はこの体を死者の物として扱うはず。死者に対して一般人が行うのは埋葬か火葬、火葬されてたら今の体はないだろうし、だから考えられる可能性は埋葬しかない。


「今私の体が土の中って事は……この息のしにくさもそれが影響してるのね」

 

 さっきから酸素がかなり薄くなった気がしてはいたけれど、まさか土の中とは誰が創造できただろうか。私はなるべく酸素の使用を控えるために目を閉ざし、呼吸を浅く整える。

だが所詮それはその場しのぎの行動、時期に酸素が底を尽き私は逃れられない死を迎えることになる。巫女の力を使おうにもここに利用できる物なんて花ぐらいしかない。


「花……そうよ花よ! もしかしたら」

 

 私はすぐに手元に散らばっている花を握った。萎れて力が無い花びらを指先にこするようにして触れていく。同時に小さく私は息を吐き出した。


「お願い目を覚まして!!」

 

 祈るような気持ちで私は花びらを握り締めた。瞬間空間に一瞬白色の光が雷の糸のように走る。その光は紛れも無く成功の証、巫女は様々な物から力を得ることが出来る。それは自然界に存在するあらゆる物、土や木、葉、花、水や火、あらゆる物が巫女の力になってくれる。光の後空間の花々が緑色にうっすらと蛍のヒカリのようにして輝きだした。

同時に今まで息苦しいと感じていた空気が一瞬にして雨上がりの朝のように清んだ心地のいい空気が小さなこの空間に広がった。

 

「ありがとうお花さん」

 

 そういって大きく息を吸い込んだ。


「当面の酸素が確保できたとして、これからどうしたらいいの? 花に宿る力なんて微々たる物だし、今あるものではどうがんばったってこの棺桶からは抜け出すことは出来ない。はてさて、どうしたらいいのよ」 

 

 花が与えてくれる力は本当に豆粒ほどに小さい。この場所から抜け出すにはもっと大きな力が必要で、そんな力はどこからも手にする事は出来ない。結局のところ行き詰った。


「……はぁ」

 

 溜息ぐらいしか今の私には行動が許されていない。何も出来ずこのまま私は死ぬのかな、そんな事を考え始めた頃、不意に声が聞こえた。本当に小さな声でどこから聞こえてくるのかわからなかったけど、本当にその声は聞こえた。


 ……早く

 

「声?」

 

 ……急がないと見つかっちまう

 

 声は徐々に大きくなり、そしてはっきりと聞こえてきた。どうやら声の主は二人いるようだ。


「早くしないか! 見つかったら俺たち打ち首どころか一族皆殺しにされちまう」

「うっせぇなぁーそんな事言うならお前が掘れよ!?」

「ば、ばか言うなよ俺は司令塔だぞ? 司令塔は筋肉を使わず頭を使うんだお前みたいに筋肉馬鹿とは違って俺は作戦をたてて計画を成功させるのが『仕事シゴト』なんだよ」

「俺は正直お前より頭いいぞ? だって頭のできた奴ならこんな場所狙わん」

「ばーか、それが狙いだよ。お前のような馬鹿が多い墓荒らしは普通は埋葬されて1ヶ月以上たってから墓の中にあるものを荒らす。だから墓守の連中は埋葬されてまだ浅い物はあまり警戒していないんだ。それに今俺たちが掘っている墓は国の重要人物の墓だ、人に慕われ慈しまれてきた女の墓、普通そんな女の墓を荒らす奴がいるか? 国の誰もが認め、愛した女性の墓を死後まだ三日目に墓を荒らす不届き者がいると思うか?」

「そりゃーいないな、だってあの人は本当にいい女だった」

「だろ? そ言うわけで今日はかなり警戒が甘い、といっても一時間おきに見張りはやってくるからだから急げといっている。こんな話をしている間にも奴等ここへ向かってきているんだ。だから急いで掘れ、俺は見張っといてやるから」

「あいあい、わかりましたよ。掘ります、掘りますよ」

「よーしそれでいい」

 

 声は上から聞こえてきている。どうやら不届きにも墓を荒らす人間たちが今上にいるみたいだ。


「墓荒らしかな? 巫女をやっていた頃にも墓を荒らして死霊を怒らせていた連中がいたけれど、どこの世界にもそういう連中はいるみたいね。でも今回だけはそれにかけるしかなさそうだわ」


 私は彼らが棺桶を掘り当てるまで息を殺して待つことにした。

 しばらくの間彼らの声が絶え間なく聞こえてきて私はそんな彼らの声を聞きながら

目を閉ざしてじっと待った。それから幾ばくかの時間が経ってようやく棺が開かれる音が棺桶の中に響いた。


「うひゃぁーやっぱいい女だぜ、国一番の美女って評判はだてじゃねぇなぁーだがもったいねぇなぁーこれほどの別嬪さんがこんなに若いときに誰の手にも触れずに死ぬなんて」「本当にきれいな女だぜ、生きていれば貴族にいい額で売れただろうに、ま、いまとなっちゃー果てて骨になるだけの存在だがな」

「もたいねぇーなぁー」

 

 二人の男が何度もそういっては私の体の回りを物色してくる。

 多分きっと私の周りに置かれた宝石が目当てなんだろう。

 ネックレスや宝石が指や首に掛かっていたことは知っている。彼らはこうした供え物を奪うのが仕事なのだ。


「まぁーこの女には悪いが、死後の世界には人々の思いだけもっていってもらって後は全部俺たちがもらうとしよう」

「そうだな兄貴」

「この仕事がすんだら街で女囲んで酒飲んで朝まで飲み明かすぞ」

「それ最高!」

 

 男たちはわらわらと笑いながらなれた手つきで私の周りに置かれていた宝石や貴金属奪っていく。そしてほとんどの物を奪うと男たちはすぐに棺桶を埋めようとし始めた。


「よし、もう奪えるものは奪った次は埋めるぞ」

「わかった今すぐにでも埋め始めよう」

 

 まずい、このまま埋められたらさっきと同じ状況に、何とか今のうちに出ないと、

そう思った矢先、事態は好転した。


「貴様ら何をしている!」

 

 また違う声、誰とも知れぬ声が外から聞こえてきた。その声に男たちがあわてたように声を上げるのが聞こえた。


「あ、やべぇ、墓守だ! 逃げるぞニル」

「おい、どうすうだよ墓を埋めないと厄介なことになるぞ」

「うるせぇーそんなもんほっとけ、つかまったら俺たち斬首刑物の罪を負うことになるんだぞさっさと奪ったもんもって今は逃げろ!」

「あいさ兄貴!」

 

 男たちの足音が離れていくのを感じて私もすぐに棺桶から体を乗り出した。

 

「逃げなきゃ! ここにいたら絶対にまずい。今すぐに逃げてここじゃない場所へ」

 

 私はすぐに目を開いた。すると白色の月が見えた。空は晴れていて空気が清んでいた。


「なんとか走れそう」

 

 私は何も考えずにその時足を走らせた。

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