プロローグ
誰にでも出来る仕事だと思っていた。
俺くらいの才能があれば何でもね。嫌みな奴だと思われてもいい。自己中B型で結構。
誰でも出来る仕事を何で俺がやらなければならないんだ。そう思い続けて6年が経った。
美容師?髪を切るだけだろう。幼稚園児にでもやらせとけ。
大工?木をきるだけだろ。小学生にやらせとけ。ヘアメイク?化粧をするだけ。女子高生にやらせとけ。スポーツ選手?それこそ頭を使わない馬鹿でも出来る仕事だ。
みんなもう少し頭を使ったらどうだ。仕事の価値を考えてくれ。お金の価値を考えてくれ。
もっと自信の持てる仕事、息子に自慢出来る仕事、お金に困らない仕事、リストラにあわない仕事、一人でもやれる仕事。
しかし、そんな都合の良い仕事なんてあるわけない。俺の才能は無限大だが唯一の個人的に好きなのは小説だった。
小説家?文章を書くだけの仕事。中学生でも出来る仕事だ。
それでも何故かこの仕事には魅力を感じた。まぁ、仮に失敗しても他に仕事なんてたくさんある。何かのパイオニアにでもなる自信だってある。そういった自信家もB型ならではだが。
小説家を志すとして、何をやらなければならないか。
物語を書くしかないだろう。
ネタは?
何かの本で読んだことがある。面白いネタほどみじかにあるものだと。俺のみじかにあるもの。布団、椅子、机、携帯。
携帯?
携帯電話をふといじってみると頭が痛くなった。寝よう。
睡眠?
きっと夢を見れば面白いネタが浮かぶだろう。合理的とはそういうことだ。
そう、それがこの物語の始まりだった。朝、目が覚めると昨日見た夢のことを思い出した。確かジェットコースターに乗っている夢だ。
恥ずかしい話だが俺はジェットコースターが苦手だ。でも、何故か楽しそうに乗っている俺がいた。
何故だろう?
俺の頭のなかで寝ている時にジェットコースターが浮かんでくるわけがない。しかし、現実は夢として想像されているわけだ。俺はもしかしてジェットコースターが好きなのか?
そう思い富士急ハイランドに行ってみた。そこはまるで別の世界。見るものすべてに魅了された。
勘違いしないでほしい。俺が魅了されたのはジェットコースターではない。人の多さだ。
どこを見ても人の山。
うんざりだ。
なぜジェットコースターなんかが夢に出てきたのか?
思い出せばそれは10年前にさかのぼる。
それは俺がまだ高校生だったころ。
田舎町に育った俺は一人の少年と出会った。そいつの名前は誠。偶然にも俺と同じ名前だ。誠は俺に言った。
「ブランコの進化版を知っとるか?」
なんて生意気なガキだ。初対面の俺にそんな口の聞き方をした奴は初めてだ。俺は教育することにした。
「いいか?子供だったらもっと可愛らしくしてろ!もっと口の聞き方に気をつけろ!」
こういうガキがいるから世の中はうまくいかなくなるんだ。俺はなおも繰り返した。
「聞いてんのか?言葉づかいひとつで人間性ってのが決まるんだ。覚えとけ!」
腹の虫が治まったところで家に帰ることにした。するとガキが俺の背中にこう言い放った。
「言ってくれるな。兄ちゃん」
振り返った時にはもう遅かった。右ストレートが顔面に直撃したのだ。ガキのくせにとてつもないパンチ力だ。朦朧とする意識の中、うっすらと少女の顔が写った。その少女は俺を殴ったガキにこう言ったのだ。
「お父さ〜ん!」
ガキなんかじゃなかった。ただの小さいおっさんだったのだ。そのまま俺は意識を失った。