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「監査するな」

監査されました。

書類不備の指摘が、設計講評に変わりました。

感謝されてしまいました。

 今日も感謝されてしまいました。


 来たのは、ギルドの監査官(かんさかん)でした。

 トラップを突破しに来たのではありません。

 書類不備を指摘しに来たそうです。


 今日の罠には自信があります。

 書類にはありません。


═══════════════════════════

ダンジョン配信中(登録者:1)

女神様「書類ですね❤」

═══════════════════════════


「ダンジョン登録書類に不備があります」


 監査官さんは、入口でそう言いました。

 眼鏡をかけ、分厚い書類束を抱えています。


「どの書類でしょうか」

「すべてです」

「すべて?」


 嫌な言葉です。


「まず、管理者名が未記入です」

「管理をしています」

「回答になっていません」

「改善の余地があります」

「そこは改善してください」


 監査官さんは、私のコートを見ました。

 全面に書かれた計算式、罠の角度、費用対効果、英雄別対応メモ。


「……これは書類ですか」

「コートです」

「非常に情報量が多いですね」

「困っています」


 そのとき、今日の迷路罠(めいろトラップ)が起動しました。

 本来は、侵入者の進路を少しずつ曲げ、出口から遠ざけるものです。


 ですが三パーセントのズレにより、通路の壁が動いた結果、監査官さんの書類束だけが、きれいに項目順へ並び替わりました。


 ぱさぱさぱさ、と紙が舞います。

 そして、整いました。


「……独創的ですね」

「書類です。設計ではありません」

「いえ、この分類方法は見事です。未提出、要修正、要確認、意味不明が一目でわかる」

「最後の分類は何ですか」

「意味不明です」


 意味不明は、たぶん私の書類です。


 監査官さんは、床に座り込みました。

 書類を一枚ずつ確認し始めます。


「この魔道水晶(まどうすいしょう)の設置申請、監視用と配信用が混在しています」

「一台しかないので」

「兼用は本来禁止です」

「予算がありません」

「……合理的ですね」

「合理的ではなく節約です」

「節約設計として評価できます」

「評価しないでください」


 書類不備の指摘が、少しずつ設計講評になっていきます。

 とても困ります。


 シア様は壁にもたれて、楽しそうに眺めていました。


「褒められていますね〜」

「これは監査です」

「書類もかわいいですね〜」

「書類をかわいいと言わないでください」

「ふふっ」


 シアラのニヤニヤが、少し薄かった。ハルカは気づかなかった。


 監査官さんは、最後に書類束を整えました。


「不備は多いですが、改善意欲は認められます」

「ありがとうございます」

「この分類方式、ギルドで参考にします」

「参考にしないでください」

「感謝します」

「感謝はいただかなくて大丈夫です」


【監査結果:保留 / 書類分類:改善 / 監査官満足度:高】


 私はコートに追記しました。


【管理者名:未記入】

【書類分類:罠で整った】

【意味不明分類:要削除】

【監査官:参考にするらしい】


 改善の余地があります。


 感謝するなつってんだろ。監査は設計講評ではありません。


【今回の登場キャラクター紹介】

・監査官:書類不備を指摘しに来た人。途中から設計を褒めました。

・ハルカ:書類より罠のほうが得意です。

・シアラ:書類も見ています。


【今回のズレパターン解説】

観光型。書類監査が、ダンジョン設計の観察と講評に変わりました。


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【今話のダンジョンデータ】

 ダンジョンランキング(だんじょんらんきんぐ) :64870位 → 64844位

 配信視聴者数      :8名 → 9名

 本日の用途       :監査会場

 コートのメモ(今話)  :「管理者名未記入/書類分類が罠で整った/意味不明分類削除」

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