「また仕入れに来るな」
タルガさんが仕入れに来ました。
今回の副産物、品質が上がっていたそうです。
今日も感謝されてしまいました。
正確には、感謝ではありません。
取引だそうです。
ですが、帰り際の顔が明らかに満足そうでした。
実質、感謝です。
困ります。
今日はタルガさんが来る日でした。
前回、失敗罠の副産物を買い取っていった素材業者の方です。
今回は罠を改良しています。
副産物とは関係ありません。
今日の罠には自信があります。
═══════════════════════════
ダンジョン配信中(登録者:5)
女神様「仕入れですね〜❤」
═══════════════════════════
仕入れではありません。......コメント欄に反論したい。できません。
撃退準備です。
タルガさんは、書類鞄と収集袋を持って現れました。
今日も商人らしい落ち着いた顔です。
「先月より設計が変わっていますね」
「改良しました」
「拝見します」
「攻略ではなく、拝見なんですね」
「仕事ですので」
タルガさんは第一通路に入り、床に落ちた細かな魔導金属片を拾いました。
火炎柱の周辺では、焦げた石の粉を小瓶に入れます。
落下床の下では、折れた支柱の断面を見てうなずきました。
「......これは、前回と違います」
「改良しました。性能が上がっています」
「性能が上がると、副産物の純度も上がります」
「......そうなんですか」
知らない経済効果が発生していました。
タルガさんは計算書を広げました。
速い。
罠より速い。
「今回の副産物は、品質が一段階上です。買取単価が上がります」
「上がるんですか」
「はい。今月の買取額は、先月の一・三倍になります」
「......一・三倍」
言葉が、耳から入って、そのまま原価計算室に運ばれていきました。
一・三倍。
罠の補修費。
魔石代。
感知糸。
火炎柱の油。
差し引き。
「......黒字ですか」
「黒字です」
「......そうですか」
「良い設計者ですね。改善するたびに収益が上がるダンジョンです」
「それは想定していませんでした」
「想定していない部分に価値が出ることは、よくあります」
「......メモします」
私はコートの右袖に書きました。
【改善と副産物価値の相関】
【品質上昇:A相当】
【一・三倍】
【失敗ではない可能性あり】
【いや、失敗は失敗】
最後の一行は、少し強く書きました。
タルガさんは帰り際、収集袋を軽く持ち上げました。
「来月も来ます。楽しみにしています」
「感謝はいただかなくて大丈夫です」
「感謝ではなく取引です」
「......はい」
前回より、少し素直に返事をしてしまいました。
それがまた、困りました。
シア様が横で見ています。
「一・三倍になりましたね〜」
「想定していませんでした」
「喜んでいますか〜?」
「費用対効果を計算しています」
「ふふっ」
「笑うところではありません」
「そうですか〜」
シア様のニヤニヤが、少し薄かった。
「黒字ですか」と私が聞いた瞬間、ほんの少しだけ。
もちろん、私は計算書しか見ていませんでした。
═══════════════════════════
ダンジョン配信中(登録者:5)
女神様「来月も楽しみですね〜❤」
═══════════════════════════
改善の余地があります。
収益モデルについて。
改善するほど副産物の価値が上がる。
それは、ダンジョンマスターの目的と一致しています。
......一致しています。
メモします。
感謝するなつってんだろ。改良版の副産物も廃材ではありません。
でも計算書は更新しました。
登場キャラクター紹介
・ハルカ:廃ダンジョン設計者。黒字という言葉に弱い。
・シアラ:女神様。ハルカが計算している姿を見るのが好きそうですが、本人は何も言いません。
・タルガ:素材業者。失敗罠の副産物に価値を見出す、ある意味一番危険な常連。
今回のズレパターン
・誤解型。
ハルカは罠を改良したつもりでしたが、タルガには「高品質素材を生む仕入れ場」に見えました。
═══════════════════════════
【今話のダンジョンデータ】
ダンジョンランキング :65532位 → 65532位
配信視聴者数 :5名 → 5名
本日の用途 :廃材置き場(品質A)
コートのメモ(今話) :「改良版副産物・品質格上げ・改善と廃材価値の相関メモ・要研究」
═══════════════════════════
視聴者増減コメント:
変動なしです。いつも通りです。
収益は増えました。困っています。少しだけ。
少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!




