「草を摘むな」
ミリさんが戻ってきました。
今日は植物採取が目的でした。
今日も感謝されてしまいました。
しかも、今回は罠にかかったわけではありません。
罠を突破されたわけでもありません。
罠を、そもそも相手にされませんでした。
改善の余地があります。
かなりあります。
今日は、ミリさんが来ると連絡がありました。
久しぶりです。最初はダンジョンを食堂にされて、前回は落とし穴の件でした。
私は前回の反省を活かし、床の感知糸の高さを調整しました。
ミリさんの細身でも通れないように、三重構造です。
今日の罠には自信があります。
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ダンジョン配信中(登録者:4)
女神様「ミリちゃん、久しぶりですね〜❤」
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「お久しぶりです。また来てしまいました」
ミリさんは、入口でぺこりと頭を下げました。
背中には小さな籠。腰には採取用の小刀。服装は完全に冒険者ですが、顔つきだけが完全に山菜採りの人でした。
「......お久しぶりです」
「今日、実はダンジョン内に珍しい植物が生えているって聞いて」
「......誰から聞きましたか」
「ギルドの掲示板に書いてありました。廃ダンジョン内植生調査、って」
「............」
掲示板。
誰ですか。
ダンジョンの用途欄に、勝手に植生調査を足した人は。
「入ってもいいですか?」
「......どうぞ」
自分でも驚くくらい、返事が早かった。
ミリさんが第一通路へ入りました。
今日の罠機構は、床から二十センチの高さに張った感知糸。
足首より少し上。
普通に歩けば必ず触れる高さです。
ミリさんが床を見ました。
「あ。これ、シロツメクサに似た種類です」
その場で膝をつきました。
感知糸の下を、普通にくぐりました。
「............」
「かわいいですね、この葉っぱ」
かわいいのは葉っぱではありません。
罠の存在感のなさです。
ミリさんは籠を置き、丁寧に草を摘み始めました。
膝をついているので、体の位置が低い。
低すぎる。
感知糸が、完全に頭上です。彼女の細さも相まって......。
「......膝をついています」
シア様が石段の上で頬杖をついていました。
「採取姿勢ですね〜」
「罠の高さより低いです」
「自然に優しい突破方法ですね〜」
「突破ではありません。これは採取です」
ミリさんはそのまま第二通路へ進みました。
いや、進んだというより、草を見つけるたびにしゃがみ、少しずつ移動しています。
結果、全ての感知糸の下をくぐりました。
「あ、ここにもあります」
しゃがむ。
「あっ、この花、珍しいかも」
しゃがむ。
「この辺、土がいいんですね」
しゃがむ。
私の罠は、ミリさんの膝に完全敗北しました。
一時間後。
ミリさんは籠いっぱいに草花を詰めて戻ってきました。
顔は少し明るく、目はきらきらしています。
「今日もありがとうございました。珍しい植物が三種類も見つかりました!」
「感謝はいただかなくて大丈夫です」
「でも、本当に助かりました。これ、薬草になるかもしれないんです」
「ダンジョンは薬草園ではありません」
「でも、土の魔素が濃いので、育ちがいいんだと思います」
「......メモします」
言ってから、負けた気がしました。
コートの左袖に、新しい項目を書き足します。
【ミリ採取姿勢欄】
【膝をつく場合、感知糸は無効】
【植物分布と罠配置の競合確認】
「また来ますね」
「......どうぞ」
また、早かった。
シア様のニヤニヤが、少し薄かった。
ハルカはそれに気づかなかった。
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ダンジョン配信中(登録者:4)
女神様「またね、ミリちゃん❤」
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改善の余地があります。
感知糸の高さについて。
それと、植物採取目的の来訪者について。
感謝するなつってんだろ。ダンジョンは植物採取場ではありません。
ミリ採取姿勢欄、追記しました。
登場キャラクター紹介
・ハルカ:廃ダンジョン管理中の設計者。今回は膝に負けました。
・シアラ:女神様。見ています。ずっと。
・ミリ:初期常連英雄。細身、採取上手、罠を攻略している自覚なし。
今回のズレパターン
・回避型。
罠を見抜いたのではなく、植物採取の姿勢が低すぎて罠を全部くぐりました。
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【今話のダンジョンデータ】
ダンジョンランキング :65533位 → 65533位
配信視聴者数 :4名 → 4名
本日の用途 :植物採取場
コートのメモ(今話) :「ダンジョン内植物分布・ミリ採取姿勢欄・罠と植物の競合エリア要確認」
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視聴者増減コメント:
変動なしです。ミリさんは登録しませんでした。不思議です。
でも、また来るそうです。もっと不思議です。
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