表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/60

「修理するな」

 旅の鍛冶師(かじし)が来ました。

 火炎罠の熱で装備を修理し始めました。

 ダンジョンは修理工房ではありません。

 今日も、感謝されてしまいました。


 名前については、今日も保留(ほりゅう)のままです。

 それとは別に――


 火炎柱(ファイアピラー)罠機構(トラップシステム)を、少しだけ改良アップデートしました。

 コートの左袖には、修正後の計算式が二列。

 魔力効率(まりょくこうりつ)も、前回より三・二パーセント改善しています。


 今日の罠には自信があります。


 ═══════════════════════════

 ダンジョン配信中(登録者:2)

 女神様「今日はどんな方ですかね〜❤」

 ═══════════════════════════


 来たのは、旅の鍛冶師(かじし)でした。


 腰に工具を何本もぶら下げた、中年の男です。

 手には使い込まれた鉄槌。肩には煤けた鞄。


「廃ダンジョンに素材があると聞いてきた」


「……素材の販売はしていません」


「見るだけならいいか」


「見るだけなら、どうぞ」


 私は入口横の魔道水晶(まどうすいしょう)を確認しながら、通路を指しました。

 第一通路。

 今日の主役、火炎柱がある場所です。


 鍛冶師が、一歩踏み込みました。


 床の感知糸(センサーワイヤー)が反応します。

 石床の隙間から赤い光が走り、次の瞬間、通路中央に火炎柱が立ち上がりました。


 成功です。


 燃焼角度、熱量、発動タイミング。

 すべて設計通りです。


 鍛冶師は、火炎の前で立ち止まりました。


「……いい熱だ」


「はい?」


 鍛冶師は腰の工具袋から、欠けた鉄板を取り出しました。

 それを火炎柱の前に差し出します。


「ちょうどいい温度だ。ここで伸ばせる」


「伸ばせる、とは」


 返事の代わりに、鍛冶師は鉄床代わりの石を置きました。

 そして、ハンマーを取り出しました。


 カン。


 通路に、金属音が響きました。


 カン。カン。カン。


 ダンジョンの通路で。

 私の火炎罠の前で。

 装備の修理が始まりました。


「ダンジョンで......修理しています......」


「助かる。ここの設計者、わかってる。鍛冶師向けの熱量だ」


「いえ、わかっていません」


「いや、これはいい。旅先でここまで安定した火はなかなかない」


撃退用(げきたいよう)です」


「火は使い方だ」


 それは正論でした。

 ですが、その正論をここで使わないでほしいです。


 三十分後。


 鍛冶師の刃こぼれは直っていました。

 肩当ても直っていました。

 なぜか腰の鍋まで磨かれていました。


「助かった。旅の途中で気になっていたんだ」


「……そうでしたか」


「礼を言う。腕のいい設計者だ」


「感謝はいただかなくて大丈夫です」


「また来ていいか」


「来ないでください。改善します。次は修理に使えない温度にします」


「それは困る」


「……困ります、こちらも」


 鍛冶師は満足そうに手を振って帰っていきました。

 修理済みの装備を、きれいに鳴らしながら。


挿絵(By みてみん)


 私は火炎柱の前に立ちました。


「改善の余地があります。火炎罠の熱量調整について」


 修理に使えない温度。

 それは罠設計として、正しいのでしょうか。


(でも費用対効果を考えると......)


 考えません。

 ダンジョンは修理工房ではありません。


 シア様が、足をぶらぶらさせながら笑いました。


「修理工房になりましたね〜」


「なっていません」


「熱量、ちょうどよかったみたいですよ〜」


「よかったかどうかは関係ないです」


「ふふっ」


 シア様のニヤニヤは、少しだけ薄かった。

 鍛冶師が「それは困る」と言った瞬間、私が少し困った顔をしたからです。

 もちろん、私は気づいていません。


 ═══════════════════════════

 ダンジョン配信中(登録者:2)

 女神様「修理、できましたね❤」

 ═══════════════════════════

 

 ......ぜんっぜん違います。


 感謝するなつってんだろ。ダンジョンはドワーフの修理工房じゃねえんだよ!



 ■今回の登場キャラクター


 ハルカ:廃ダンジョンの管理をしている女性。火炎罠を作ったのに、なぜか修理用の炉にされました。

 

 シア様:女神様。今日も配信とハルカを見ています。火炎罠の用途変更にもだいぶ寛容です。


 旅の鍛冶師:火を見れば仕事を始める職人。悪気はありません。悪気がないのが一番困るやつ。


 ■今回のズレパターン

 活用型。

 罠を避けるのではなく、便利な設備として使われました。


 ═══════════════════════════

【今話のダンジョンデータ】

 ダンジョンランキング(だんじょんらんきんぐ) :65534位 → 65534位

 配信視聴者数      :2名 → 2名

 本日の用途       :修理工房

 コートのメモ(今話)  :「火炎罠・副次利用報告3件目・修理用途・原価回収不可・改善要」

 ═══════════════════════════


 視聴者増減コメント:

「変動なしです。アルベロさんと思われる方は、たぶん困っています」


 少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ