「修理するな」
旅の鍛冶師が来ました。
火炎罠の熱で装備を修理し始めました。
ダンジョンは修理工房ではありません。
今日も、感謝されてしまいました。
名前については、今日も保留のままです。
それとは別に――
火炎柱の罠機構を、少しだけ改良しました。
コートの左袖には、修正後の計算式が二列。
魔力効率も、前回より三・二パーセント改善しています。
今日の罠には自信があります。
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女神様「今日はどんな方ですかね〜❤」
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来たのは、旅の鍛冶師でした。
腰に工具を何本もぶら下げた、中年の男です。
手には使い込まれた鉄槌。肩には煤けた鞄。
「廃ダンジョンに素材があると聞いてきた」
「……素材の販売はしていません」
「見るだけならいいか」
「見るだけなら、どうぞ」
私は入口横の魔道水晶を確認しながら、通路を指しました。
第一通路。
今日の主役、火炎柱がある場所です。
鍛冶師が、一歩踏み込みました。
床の感知糸が反応します。
石床の隙間から赤い光が走り、次の瞬間、通路中央に火炎柱が立ち上がりました。
成功です。
燃焼角度、熱量、発動タイミング。
すべて設計通りです。
鍛冶師は、火炎の前で立ち止まりました。
「……いい熱だ」
「はい?」
鍛冶師は腰の工具袋から、欠けた鉄板を取り出しました。
それを火炎柱の前に差し出します。
「ちょうどいい温度だ。ここで伸ばせる」
「伸ばせる、とは」
返事の代わりに、鍛冶師は鉄床代わりの石を置きました。
そして、ハンマーを取り出しました。
カン。
通路に、金属音が響きました。
カン。カン。カン。
ダンジョンの通路で。
私の火炎罠の前で。
装備の修理が始まりました。
「ダンジョンで......修理しています......」
「助かる。ここの設計者、わかってる。鍛冶師向けの熱量だ」
「いえ、わかっていません」
「いや、これはいい。旅先でここまで安定した火はなかなかない」
「撃退用です」
「火は使い方だ」
それは正論でした。
ですが、その正論をここで使わないでほしいです。
三十分後。
鍛冶師の刃こぼれは直っていました。
肩当ても直っていました。
なぜか腰の鍋まで磨かれていました。
「助かった。旅の途中で気になっていたんだ」
「……そうでしたか」
「礼を言う。腕のいい設計者だ」
「感謝はいただかなくて大丈夫です」
「また来ていいか」
「来ないでください。改善します。次は修理に使えない温度にします」
「それは困る」
「……困ります、こちらも」
鍛冶師は満足そうに手を振って帰っていきました。
修理済みの装備を、きれいに鳴らしながら。
私は火炎柱の前に立ちました。
「改善の余地があります。火炎罠の熱量調整について」
修理に使えない温度。
それは罠設計として、正しいのでしょうか。
(でも費用対効果を考えると......)
考えません。
ダンジョンは修理工房ではありません。
シア様が、足をぶらぶらさせながら笑いました。
「修理工房になりましたね〜」
「なっていません」
「熱量、ちょうどよかったみたいですよ〜」
「よかったかどうかは関係ないです」
「ふふっ」
シア様のニヤニヤは、少しだけ薄かった。
鍛冶師が「それは困る」と言った瞬間、私が少し困った顔をしたからです。
もちろん、私は気づいていません。
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ダンジョン配信中(登録者:2)
女神様「修理、できましたね❤」
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......ぜんっぜん違います。
感謝するなつってんだろ。ダンジョンはドワーフの修理工房じゃねえんだよ!
■今回の登場キャラクター
ハルカ:廃ダンジョンの管理をしている女性。火炎罠を作ったのに、なぜか修理用の炉にされました。
シア様:女神様。今日も配信とハルカを見ています。火炎罠の用途変更にもだいぶ寛容です。
旅の鍛冶師:火を見れば仕事を始める職人。悪気はありません。悪気がないのが一番困るやつ。
■今回のズレパターン
活用型。
罠を避けるのではなく、便利な設備として使われました。
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【今話のダンジョンデータ】
ダンジョンランキング :65534位 → 65534位
配信視聴者数 :2名 → 2名
本日の用途 :修理工房
コートのメモ(今話) :「火炎罠・副次利用報告3件目・修理用途・原価回収不可・改善要」
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視聴者増減コメント:
「変動なしです。アルベロさんと思われる方は、たぶん困っています」
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