第五話 至福のドライブ
店を出た彼は、眩しい太陽の下、駐車場へと戻った。
店内では多種多様な売り文句のコーティング剤を見てきたが、愛車に近づくにつれて、彼の笑みはだんだんと深くなっていく。
愛車は彼が停めた日当たりの良い区画で、高くなった日光を受けて輝いていた。
彼が施工したワックスは天然ワックスとはいえ、耐久性を高めるためにある程度の化学成分が配合されている。
そのおかげで、ワックスとは思えないほどの耐久性と撥水性を併せ持っていた。
老舗メーカーが現代に送り出したカルナバワックス。
彼はそれを、知識としてではなく、何度も塗り、何度も眺め、何度も触れて理解している。
その結果として、彼の中ではすでに一つの答えが出ていた。
彼は車の前に立ち、改めてその白いボディの艶を確認した。
店内では多種多様なコーティング剤のPOPが「濡れ艶」を謳っていた。
だが、彼の目の前にあるのは、時間と手間をかけて作り上げた天然ワックスの艶だ。
「それでいい、これがいい。」
満足そうに頷くと、彼は運転席のドアを開けた。
低いエンジン音が響き、白く輝く愛車は駐車場を後にする。
向かったのは山道だった。
朝、出発前に丹念に拭き上げた窓ガラスは、一点の曇りもなく光を透過している。
くねくねと曲がる山道を登り、両脇の木々が陽光を遮るたびに、車内は濃い影に包まれた。
しかし、その影を抜けて視界が開けた瞬間――。
目の前に広がる青い水平線が、まるで高精細な映像のように鮮明に飛び込んできた。
彼は一瞬息をのんだ。
朝の窓拭きは、決して無駄ではなかった。
その透明度が、海の色、空の青、遠くの島の輪郭までを、ガラスの存在を感じさせずに彼へ届けていたのだ。
風に乗って、微かに潮の香りが流れ込む。
彼はハンドルを握る手に確かな喜びを覚え、この鮮明な視界がもたらすドライブの充実に深く頷いた。
時折、横を通り過ぎる車。
信号待ちの時、歩行者や隣に並んだ車が彼の愛車へと視線を向けていく。
それは、このボディの艶に目を奪われているに違いない。
彼は心の中で密かにそう確信し、優越感を覚えた。
ワックスの膜が、この強い日差しを柔らかな光に変えて車体を包み込んでいる。
正午を過ぎ、太陽が真上から少し傾き始めた頃。
彼は街へと続く道を戻り始めた。
十分な日光浴と、愛車との一体感に満たされた数時間。
自宅に戻り、愛車をガレージに収める。
日常用の照明に包まれたその光景は、彼をその場に数分立ち止まらせるには十分だった。
そんな空間を名残惜しむように見つめた後、彼はゆっくりと照明を消す。
そして静かにガレージを後にするのだった。




