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大砲のあるツノル島

作者: 仲居雅人

 ツノルは科学も魔法も遅れた発展途上国だが、島の中心には大砲があった。

 いつからあるか分からない龍の頭の様な巨大な大砲は、島民にとっては未知の技術である機械で操作が可能となっており、常に誰かが就いて水平線の向こう側からやってくる敵に備えていた。



 まもなく午後9時。今夜の操作を担当する者が狭い操縦室の扉を叩いた。


「お疲れ様です、ルンペンさん」

「ようクーリー、今夜の操作担当はお前か。他には誰が来てるんだ?」

「周辺警備にはシナジン、エスキモー、ロスケ、ホクセンが。後は分かんないです」

「全員知らない名前だ…まあ何もないだろうけど真面目にやれよ~」


 ルンペンと呼ばれた男は荷物を纏めると、テレビを点けたまま部屋を出た。

 クーリーは荷物を広げると、それまで彼が着いていた座席に腰を降ろしてテレビのリモコンを取った。


 軍人が勤務中に娯楽など処罰では済まない。しかしツノルという国は記録上、一度も他の国と戦争した事がないのでこういった行動も許されるのだ。

 それにいざ敵襲があったとしても、我が国にはこの大砲があるという安心感があった。


「早く終わらないかなぁ…」


 クーリーは国内の小さな高校を卒業すると軍人になった。軍人はこの大砲の近くで楽に働くか、逆に死ぬほどつらい海軍になるかの二択と言われているが、彼は見事に大砲に関わる職務に就いた。

 大砲に関わる仕事をする者の中に、憧れを持つ者はいないだろう。楽で高収入。誰もが憧れる待遇を目当てにやってくる。クーリーもその内の一人で、大砲に関わる仕事に就けた勝ち組だ。




 時間が進んで日付を跨いだ頃だった。島の海岸に設置されている兵器の類が一斉に稼働を始めた。その様子をモニターで視たクーリーは、あと6時間で交代かと思う。

 この時間から日の出まで、海の底からユラグという怪物が島へ上陸しようとしてくるのだ。ユラグの目的は島にいる子供の肉や畑で育てている作物を喰らうこと。島を囲うように兵器が置かれているが、これは全てユラグ対策のために設置された物である。


 大砲には誰かが用意してくれたマニュアルがある。ユラグの活動時間帯には有事に備えて大砲を起動する必要があり、クーリーはマニュアルを読みながら機械を操作した。


「万が一、万が一があるからね」


 ユラグの異常個体か、夜襲を狙った他国か。その万が一に対面した事は一度もない。今夜も大砲は起動するだけで、発動する事はないだろう。


「こちら北東拠点のムネ!ユラグが多い!増援を求む!」

「こちら東拠点のスム。待機中の兵を向かわせた」


 無線での会話が聴こえてくるがクーリーは一切気にせずテレビを視ていた。




 午前1時。お腹が空いたクーリーはリュックの中から菓子を取り出して食べ始めた。操縦室で働く者は休憩時間が決まっておらず、好きなタイミングで食事ができるのだ。


 ちなみに手洗いは操縦室の向かいに個室がある。個室の中にも大砲を操作できる機械があるが部屋の物と違って機能が少なく、何より不衛生だと触りたがる者はいない。一応、交代の10分前に操縦室と個室を掃除するルールはあるのだが。





「ふがっ」


 いつの間にか眠っていた。目が覚めた時には朝日が昇り始め、生き残ったユラグが海に逃げ帰り始めていた。

 少し早いが掃除を済まし、帰り支度を始める。そして記録用のノートにその日の出来事を記載した。


「同上っと」


 クーリーの同上の上にはルンペンの同上、その上にはカギルの同上と同じ言葉が上まで続いていき、ページの一番上にはクーリーによる異常無しという報告が書かれていた。



 しばらくすると日中を担当するルンペンがやって来た。昨晩出会ったクーリーからすると、戻ってきたような感覚だった。


「お疲れさん。何かあったか?」

「何もありませんよ。こんな場所じゃ」

「だよな…そうだ、今度の休日バスケの大会やるけど、お前出るか?」

「嫌ですよ。あんなデカイ事しか取り柄のない人のためのスポーツ、誰がやるんですか?」

「だよな~…試合できるほど人集まんのかよ」

「お疲れさまです」


 クーリーは操縦室を出ると通路を進み、建物の外へ出た。


「うっ…太陽が眩しいな」


 こうしてクーリーの夜勤は今回も無事に終了したのである。

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