第六話:新しい仲間たち
翌朝、私は約束通り、サラをはじめとする五人の侍女たちを私たちの離宮の庭に迎えた。彼女たちの顔には、期待と、ほんの少しの緊張が浮かんでいる。
「ようこそ。でも、その前に一つだけ聞かせてちょうだい」
私は鍬を片手に、彼女たち一人ひとりの顔を見ながら尋ねた。
「皆さんは、なぜこの活動に加わりたいのかしら。ここの仕事は、見ての通り泥臭くて大変なことばかりよ」
私の問いに、侍女たちは一瞬顔を見合わせた後、サラが代表して口を開いた。
「毎日、ただ無気力に過ごすのが、もう嫌になったんです。昨日、妃様のスープをいただいて……温かいものを食べると、心まで温かくなるのだと知りました。私たちも、そんなささやかな喜びを、自分の手で作り出してみたいんです」
「そうです! アンナがあんなに楽しそうに仕事をしているのを見て、羨ましくなりました!」
「冷たいパンをかじるだけの夕食は、もうこりごりです!」
口々に語られる彼女たちの動機は、どれも素朴で、そして切実だった。この華やかな後宮の片隅で、彼女たちがいかに希望のない日々を送っていたかが痛いほど伝わってくる。
私は全員の言葉を聞き終えた後、にっこりと微笑んだ。
「覚悟はよくわかったわ。ようこそ、『後宮生活改善組合』へ」
こうして、組合員七名となった私たちの新生組織は、本格的に始動した。
人手が増えたことで、できることの幅は格段に広がった。まずは、畑の拡張だ。これまで手つかずだった区画を全員で開墾し、作付け面積を一気に三倍に広げた。
「サラは手先が器用だから、種まきと苗の管理をお願い。マリアは力があるから、あちらの開墾チームのリーダーを任せるわね」
私はそれぞれの希望と適性を見極め、役割を割り振っていく。驚くほど統率の取れた私たちの作業風景に、最初は何事かと遠巻きに見ていた他の侍女たちも、次第に畏敬の念を抱き始めたようだった。
畑仕事の合間には、ささやかな「青空教室」も開かれた。
「このハーブの隣にこの野菜を植えると、お互いの成長を助け合うの。これをコンパニオンプランツと呼ぶのよ」
「まあ、植物にも相性があるのですね!」
私の説明に、侍女たちは目を輝かせて聞き入る。彼女たちにとって、この畑はもはや単なる仕事場ではない。新しい知識を学び、仲間と語り合う、かけがえのない憩いの場となっていた。疲れ切って淀んでいた彼女たちの瞳は、日を追うごとに生き生きとした輝きを取り戻していった。
私たちの組合の活動が軌道に乗るにつれ、周囲の反応も明らかに変わってきた。
特に変化が著しかったのは、あの頑固な料理長だ。ある日の昼下がり、彼は自ら私たちの畑にやってくると、腕を組んだまま、ぶっきらぼうに言った。
「おい、小娘。お前たちのところのおかげで、最近スープの評判がいい。今日のハーブはまだか?」
その言葉は、彼なりの催促であり、そして最高の賛辞だった。私たちは笑顔で、その日一番出来の良いハーブを彼に渡した。
収穫量が増えるにつれ、新たな問題も生まれてきた。私たちの食生活は劇的に改善されたが、それでも収穫した作物は、自分たちで消費するだけでは到底追いつかないほどになっていたのだ。
「妃様、この余ったハーブ、どうしましょうか? このまま枯らしてしまうのは、あまりにもったいないです」
サラが、山のように積まれたミントの束を前に、心配そうに尋ねた。
私はその豊かな香りを胸いっぱいに吸い込み、そして、いたずらっぽく微笑んだ。
「そうね……。せっかくだから、もう少し皆の生活が楽しくなることに使いましょうか」
「と、おっしゃいますと……?」
きょとんとするアンナやサラたちに、私はウインクしてみせる。
「私たちの組合の、次の事業計画よ」
私の頭の中に芽生えた新しいアイデアに、彼女たちは期待と戸惑いが入り混じった表情で顔を見合わせる。後宮の片隅で始まった私たちのささやかな革命は、次のステージへ進もうとしていた。




