第十三話:第一回後宮給食改善会議
翌日、私の執務室には、後宮内にある全ての厨房の責任者たちが集められていた。その顔ぶれは、まさに多種多様だった。
皇帝陛下や上位妃に仕える、プライドの高そうな料理長。
数百人の侍女たちの食事を賄う、疲れ切った顔の侍女用厨房長。
そして、厳しい予算で屈強な衛兵たちの胃袋を満たす、実直だが頑固そうな衛兵用厨房長。
彼らは、召集されたこと自体に不満を隠そうともせず、部屋の空気は重く、冷え切っていた。「なぜ我々プロの料理人が、妃の道楽に付き合わねばならんのだ」という心の声が、聞こえてくるようだった。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」
私が静かに入室し、会議の開始を告げると、数人があからさまにため息をついた。
私はまず、彼らの日々の労をねぎらう言葉から始めた。
「皆様が日夜、この後宮に住まう者たちの食を支えてくださっていることに、総責任者として、心から敬意を表します」
その丁寧な言葉に、何人かの表情がわずかに和らぐ。私はすかさず、壁に貼り出した大きな羊皮紙を指さした。そこには、私が昨夜のうちにまとめた、後宮全体の食に関するデータが記されている。
「しかし、現状のシステムには、いくつかの非効率な点が見受けられます。これは誰か一人の責任ではありません。長年続いてきた、システム全体の問題です。例えば、この食料廃棄率。各厨房が別々に食材を仕入れているため、余剰在庫が多く発生し、毎日これだけの量が廃棄されています」
具体的な数字を突きつけられ、厨房長たちの間に動揺が走る。誰もが薄々感じてはいたが、目をそらしてきた問題だった。
「そこで、皆様にご提案があります」
私は二つの改善案を提示した。
「第一に、『統一献立と共同仕入れ』。特に侍女や衛兵向けの食事は、栄養バランスを考慮した献立をローテーション化し、必要な食材を後宮全体で一括購入します。これにより、仕入れコストを大幅に削減し、廃棄ロスを減らすことができます」
「第二に、『リディア農園ハーブの公式供給』。私たちの畑で栽培している高品質なハーブを、各厨房へ公式に、そして無償で供給します。これにより、コストをかけずに全ての食事の質を向上させることが可能です」
私の提案に、場は静まり返った。
その沈黙を破ったのは、やはり上位妃付きの料理長だった。
「馬鹿馬鹿しい! 我々の厨房と、下々の者たちの厨房を一緒にするなど、論外だ! 皇帝陛下に捧げる料理と、侍女どもの餌を同じ土俵で語るな!」
彼の怒声に、部屋の空気が再び凍りつく。しかし、私は冷静だった。
「もちろん、上位妃の方々へのお食事は、これまで通り、皆様料理長の素晴らしい腕を存分に振るっていただきます。これはあくまで、侍女や衛兵向けの『基本食』を効率化するためのお話です」
そして、私はとどめの一言を放った。
「共同仕入れで予算が浮けば、その削減分は各厨房に再分配することを陛下に提案するつもりです。新しい香辛料の購入、調理器具の新調、あるいは……皆様自身の待遇改善に充てることも可能になるやもしれません」
その言葉に、それまで黙っていた衛兵用の厨房長や、侍女用の厨房長の目が、カッと見開かれた。厳しい予算の中で日々やりくりしている彼らにとって、それは何より魅力的な提案だった。
「そ、それは本当かね……?」
「予算が増えるのであれば、やぶさかではないが……」
形勢は、一瞬にして逆転した。反対派だったはずの上位妃付きの料理長は、味方を失い、孤立してぐっと押し黙る。
会議の終わりには、ほとんどの厨房長が、私の提案に(打算も含めて)賛同の意を示していた。
私は、部屋の後方に静かに佇む人影に気づいていた。女官長だ。彼女は会議の始めから終わりまで、一言も発さず、ただじっと私たちのやり取りを観察していた。そして、会議の結論が出ると、小さく、誰にも聞こえないようなため息をつき、静かに部屋を去っていった。
「では、皆様。来週から第一段階として、仕入れの一本化を試験的に導入します。各厨房で今後一ヶ月に必要な食材のリストを、明日までに私の執務室へ提出してください」
私がテキパキと次の指示を出すと、厨房長たちは先ほどまでの非協力的な態度が嘘のように、真剣な顔で頷いた。
後宮改革という巨大な船が、今、確かな音を立てて、ゆっくりと岸を離れた。




