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第八話 『商人の選択』

第八話 『商人の選択』


「地鳴の剣を失ったか…」


ルノは報告を聞いて深いため息をついた。王都マルヴァに戻った一行は、研究所の一室に集められていた。


「黒き鱗は既に三つの魔剣を手に入れたことになる」ウィルが静かに言った。「風切り、そして残る三つの剣が狙われるだろう」


マリアは腰の風切りに手を置いた。「この剣を渡すつもりはないわ」


「それが賢明です」ルノは頷いた。「しかし、残る三つの剣を守る必要があります。特に『黄昏』は何としても奪われてはなりません」


カズキは窓の外を見つめていた。グレイスンの言葉が頭から離れない。「賢者の一族が語る歴史は嘘だ」…もし本当だとしたら?


「次はどうするんですか?」リンが尋ねた。


「雷光の剣の情報があります」ルノは古い羊皮紙を広げた。「東の大海原にあるストームアイル島。そこの古代遺跡に封印されているはずです」


「島ですか…」カズキは海に行くことに少し不安を感じた。「船で行くんですね」


「おそらく黒き鱗も同じ情報を持っているでしょう」ルノは表情を引き締めた。「急ぐ必要があります」


カズキはふと自分の状況を考えた。フェーレン村を出てからもう一週間以上経つ。グリッジさんは心配しているだろう。


「あの…」カズキは切り出した。「少し村に戻りたいんです。グリッジさんに報告しないと」


「今そんな場合じゃない」黒装束の男が口を挟んだ。「世界の運命がかかっているんだぞ」


「でも約束したんです。三日以内に戻ると」


場の空気が重くなる中、マリアが助け舟を出した。


「そうね、カズキには別の生活もある。少し時間をもらいましょう」


ルノは考え込んだ後、頷いた。


「わかりました。船の準備に二日はかかります。その間にフェーレン村へ行って戻ってきてください」


---


翌朝、カズキはマリアたちと別れ、一人で馬車に乗ってフェーレン村へ向かった。


村に着くと、グリッジはすぐに迎えに出てきた。


「カズキ!心配したぞ!約束は三日だったのに…」


「すみません、グリッジさん。色々あって…」


店の中でカズキは簡単に状況を説明した。勇者の転生者であること、七つの魔剣のこと、黒き鱗のことなど。


「大変なことになったな」グリッジは驚きながらも、どこか納得したように頷いた。「だがそれは君の宿命かもしれん」


「宿命?」


「なぜ異世界に召喚されたのか」グリッジは真剣な顔で言った。「全てには意味があるのだろう」


「でも、商人としてやっていくつもりだったんです」


「二つの道を歩むことはできないのか?」グリッジは微笑んだ。「お前は商人の目と勇者の心を持っている。それを活かす道はないかな?」


その夜、カズキは店で寝泊まりしながら、村での日々の続きを過ごした。朝から商品の整理をし、昼には村の子供たちに異世界の話をして聞かせ、夕方には仕入れた品々の帳簿をつけた。


日常に戻ってみると、異世界で商人として生きることにどれだけ愛着があるかを実感した。


「やっぱり俺は商人だな」カズキはベッドに横になりながら思った。


その夜、いつもの夢とは違う夢を見た。


夢の中で、カズキは広大な玉座の間にいた。そこには二人の自分がいる。豪華な王服を着た勇者王フェイトと、商人の服を着たカズキ。


「お前は何者だ」王服の自分が尋ねた。


「俺は商人だ」カズキは答えた。


「いや、お前も私も勇者だ」フェイトは言った。「なぜその力を捨てる」


「力は必要ない。人を助けられれば、それでいい」


フェイトは悲しそうな顔をした。「私もそう思っていた。だが世界は違った」


「どういう意味?」


「真実はまだ見ていない。全ての魔剣が集まった時、私の…いや、我々の記憶が解放される」


カズキが尋ねようとした時、夢は霧のように消えた。


朝、目を覚ますと、右手の小指がいつもより強く脈打っていた。


---


「行くんだな?」


グリッジは店の前でカズキを見送っていた。馬車が来るまであと少しだ。


「はい、行かないと」カズキはしっかりと言った。「でも、必ず戻ってきます」


「待っているぞ」グリッジは笑顔で、だが少し寂しそうに言った。「商人としての修行はまだまだこれからだからな」


「ありがとうございます」


カズキはグリッジに深く頭を下げ、感謝を表した。この老商人は、異世界で自分を拾い、生きる道を示してくれた恩人だ。


「それと」グリッジは小さな袋をカズキに渡した。「商売の種だ」


中には、前回の市で仕入れた貴重な香辛料が入っていた。


「これは?」


「港町では高値で売れるだろう。せっかく旅するなら、商いも忘れるなよ」


カズキは笑顔になった。「商人兼勇者、頑張ります」


馬車が村の入口に到着し、カズキは荷物を持って乗り込んだ。窓から手を振るグリッジを見ながら、彼は決意を新たにした。


勇者の宿命があるとしても、自分は商人としての目を失わない。【鑑定眼】という最弱と思われたスキルが、実は最大の武器になったように、商人としての経験も必ず役立つ時が来る。


マルヴァへの道中、カズキは風景を見ながら考えを整理した。


「勇者としての過去があるなら、商人として学んだことを活かして、今度は違う選択をしよう」


馬車が揺れる中、カズキは手帳を開き、香辛料の相場や船旅に必要な物資のリストを書き始めた。世界の運命がかかっているとしても、商人としての心は忘れない。


前世がどうであれ、今の自分は自分。


「この鑑定眼で、真実を見極めよう」


カズキはそう誓いながら、東の海へと向かう旅路についた。

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次回も精一杯書きますので、楽しみにお待ちください!

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