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第六話 『勇者の真実』

「勇者の転生者…?」


カズキは言葉を失った。宿の部屋に立つ老学者ルノの言葉が、頭の中でこだまする。


「どういう意味ですか?」マリアが風切りを手に、ルノと黒装束の集団の間に立った。


「脅すつもりはありません」ルノは手を上げた。「説明させてください。彼の正体と、七つの魔剣の真実を」


警戒しながらも、カズキたちはルノを部屋に招き入れた。黒装束の者たちは廊下で待機している。


「あなたがカズキのことを勇者の転生者と呼んだ理由は?」リンが尋ねた。


ルノはゆっくりと杖を床に置き、椅子に腰掛けた。


「500年前、勇者フェイト・ストラーデは確かに魔王を倒しました。しかし、その後の歴史は改ざんされているのです」


「改ざん?」


「勇者は魔王を倒した後、自ら『勇者王』となりました。しかし、彼の統治は次第に恐怖政治へと変わっていったのです」


ルノの話によれば、勇者フェイトは七つの魔剣の力を使って強大な力を手に入れ、最初は賢明な統治をしていたが、次第に力に溺れ、魔族だけでなく人間も含め、反対する者を容赦なく粛清するようになったという。


「それで歴史から消されたのか」ウィルが静かに言った。


「英雄の堕落を後世に伝えるのは、民の士気を下げると考えられたのでしょう」


カズキは混乱していた。もし自分が本当に勇者の転生者なら、そんな恐ろしい人物の生まれ変わりということになる。


「でも、何でカズキが勇者の転生者だって?」


「風切りへの反応です」ルノはカズキの右手の小指を指さした。「その傷は、勇者が魔王との契約に用いた血の証。そして何より、風切りがあなたに反応した」


確かに古代遺跡で風切りに触れた時、奇妙な幻影を見た。それが本当に前世の記憶だとしたら…。


「サークフィールド家は代々、勇者の歴史と魔剣を研究してきました」ルノは続けた。「そして私たちは『賢者の一族』と呼ばれる者たちの末裔なのです」


「賢者の一族?」


「勇者王の暴政を止めるため、七つの魔剣を分散させ、封印した人々です。彼らは『真の勇者』が現れるまで、魔剣が悪用されないよう見守る使命を担ってきました」


「真の勇者って…俺のこと?」カズキは信じられない顔をした。


「それはまだわかりません」ルノの表情は真剣だった。「あなたが前世の過ちを償うために転生したのか、それとも再び力を求めて転生したのか…」


重い沈黙が流れた。


「それで、何が言いたいんだ?」マリアが剣を鞘に収めながら尋ねた。


「危険が迫っています」ルノは窓の外を見た。「魔剣を集め、かつての勇者王の力を復活させようとする組織、『黒き鱗』が動き始めています」


「魔物の襲撃も彼らの仕業?」


「おそらく。彼らは既に『炎帝』と『水月』の二つの魔剣を手に入れました。残る四つと、あなたが持つ風切りを狙っています」


カズキは頭が痛くなってきた。単なる商人見習いだったのに、こんな大きな問題に巻き込まれるなんて。


「それで、私たちに何をしてほしいの?」リンが尋ねた。


「残る四つの魔剣を、黒き鱗より先に見つけてほしいのです」ルノは立ち上がった。「そして、本当の勇者の資質があるかを試す」


「試す?どうやって?」


「まずは次の魔剣、『地鳴』を探してください」ルノは一枚の地図を取り出した。「ここに場所が記されています。北の山脈にある古代神殿です」


カズキはマリアたちの顔を見た。これは冒険というより、世界の命運に関わる大事だ。断る選択肢もあるはずだが…。


「行こう」カズキは意外にも自分から言った。「もし本当に前世で悪いことをしていたなら、今度は償わないと」


マリアは微笑んだ。「そうよね。それに風切りを狙われている以上、逃げても無駄かもしれないわ」


「私も行くわ!」リンが元気よく手を挙げた。


「私も」ウィルも静かに頷いた。「真実を見極めたい」


ルノは安堵の表情を浮かべた。「ありがとうございます。準備ができ次第、北へ向かってください。私の部下たちが護衛します」


ルノが去った後、カズキは窓辺に立ち、夜の王都を見下ろした。星空の下で、街の灯りが無数に輝いている。


「勇者の転生者か…」カズキは右手の小指の傷を見つめた。「信じられないよ」


「カズキ」マリアが隣に立った。「あなたが勇者であろうとなかろうと、私たちの仲間であることに変わりはないわ」


「そうよ!」リンも近づいてきた。「鑑定眼で私たちを何度も助けてくれたじゃない」


「お前らしくあればいい」ウィルも珍しく優しい口調で言った。


三人の言葉に、カズキは温かさを感じた。たとえ前世がどうであれ、今の自分には大切な仲間がいる。


「ありがとう。でも、やっぱり心配だよ」カズキは正直に言った。「もし本当に勇者の転生者なら、力に溺れて同じ過ちを繰り返すかもしれない」


「大丈夫よ」マリアは自信たっぷりに言った。「もしあなたが変な方向に行きそうになったら、私が剣で引っ叩くから」


みんなが笑い、緊張が少し和らいだ。


「そうだ、引っ叩くより先に、価格交渉で骨抜きにしよう」カズキは商人らしく冗談を言った。「魔剣も適正価格の半値で買い取ります!」


部屋には笑い声が響いた。明日からは危険な旅が始まるが、今は仲間との団欒を楽しむ時間だ。


カズキはもう一度夜空を見上げた。星々の中に、かつての自分の記憶が隠されているような気がした。


「フェイト・ストラーデ…」その名を口にすると、右手の小指がピクリと痛んだ。「今度は違う道を選ぶよ」


そう誓いながら、カズキは星空に向かって静かに頷いた。明日は商人としてではなく、七つの魔剣を探す旅に出る。そして、自分の本当の運命を見つける旅でもある。


「さて、北の山脈での装備や食料の価格相場はどうなってるかな」


それでも商人の習性は抜けないカズキだった。

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次回も精一杯書きますので、楽しみにお待ちください!

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