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第五話 『七つの魔剣』

朝日が昇る頃、カズキはフェーレン村の入口でマリアたちと待ち合わせていた。今回も全員揃っている。女戦士マリア、魔法使いウィル、獣人族の治療師リン。そしてカズキを加えた四人だ。


「おはよう、カズキ!」リンが元気良く手を振った。

「おはよう。今日はどこへ行くの?」


マリアは腰に下げた風切りの剣に手を置いた。

「王都マルヴァよ。そこにある王立図書館で七つの魔剣について調べるわ」

「王都?」カズキは目を丸くした。「ずいぶん遠いんじゃない?」

「普通なら三日かかるけど、今回は特別よ」


そう言うとマリアは道端に停まっている馬車を指さした。四頭の立派な馬が引く、豪華な作りの馬車だ。

「これは…」

「王立魔法研究所のルノ・サークフィールド様から借りたの。彼も七つの魔剣に興味があってね」


馬車には既に荷物が積まれていた。カズキは軽く頭を下げ、馬車に乗り込んだ。

内装は予想以上に豪華で、柔らかい座席に大きな窓、さらに簡易的なテーブルまである。


「王立図書館って何?」移動中、カズキはリンに尋ねた。

「王都最大の図書館よ。古代からの文献がたくさん保管されているの。一般人は入れない場所もあるけど、私たちは研究所のルノさんからの紹介状があるから大丈夫」

「で、七つの魔剣ってなんなの?」


マリアが説明を始めた。

「500年前の大戦で、勇者が魔王を倒すために使ったという七つの剣よ。風切り、炎帝、水月、地鳴、雷光、氷刃、そして黄昏。それぞれ属性を持った強力な魔剣なの」

「そのうちの一つが、前回見つけた風切りってこと?」

「そうよ」マリアは腰の剣を軽くたたいた。「私が使ってるこの剣ね。伝説によると、七つ全部を集めると何か特別な力が得られるらしいの」


カズキは考え込んだ。七つの魔剣。なぜか聞き覚えがある。

そして前回、風切りに触れた時に見た幻影…。


「カズキ、前回の遺跡で風切りに触れた時、何か見えたんだよね?」リンが優しく尋ねた。

「うん。黒い影と戦っている自分の姿と、黄金の玉座…でも、きっと単なる幻覚だよ」

「そうかな?」ウィルが珍しく口を開いた。「古代の魔法アイテムは、特定の人にだけ反応することがある。特に…転生者には」

「転生者?」

「前世の記憶を持って生まれ変わった者だ。お前がもし前世で勇者と関わりがあったなら…」


気まずい沈黙が流れた。カズキは窓の外を見た。緑の平原が広がり、遠くには山々が見える。のどかな景色だが、心は落ち着かない。


「まあ、そんな難しいことは置いておこう」マリアが話題を変えた。「カズキ、商人として儲かってるみたいね」

「うん、グリッジさんの店の仕入れ担当になったんだ。鑑定眼のおかげでね」

「すごいじゃない!」リンが目を輝かせた。「私たちの冒険で手に入れた宝物も、カズキが売ってくれれば倍以上の値になりそう」

「そういえば、マリアはどうして冒険者になったの?」


マリアは少し表情を曇らせた。

「私は元々、王都で近衛騎士を目指していたの。でも…ある事件があって諦めた」

「事件?」

「王宮で起きた剣の盗難事件。私が疑われたのよ。無実だったけど、証拠がなくて…」

「それでマリアは王都を離れて、私たちと出会ったのよ」リンが補足した。

カズキはマリアの複雑な表情を見て、それ以上は聞かないことにした。


一日半の旅を経て、四人は王都マルヴァに到着した。

「すごい…」

カズキは思わず声を漏らした。巨大な城壁に囲まれた街は、フェーレン村の何十倍もの規模だ。

高い塔、石畳の道、そして人、人、人…。通りには様々な店が軒を連ね、馬車や行商人が行き交う。


「初めての王都よね!」マリアが微笑んだ。「慣れるまで時間がかかるわよ」

馬車は王都の中心部へと進み、大きな石造りの建物の前で止まった。「王立図書館」と刻まれた看板が掲げられている。


「着いたわ。荷物は宿に預けて、さっそく調査を始めましょう」


図書館の中は静かで薄暗く、無数の本棚が立ち並んでいた。天井まで届く本棚には、背表紙に古い文字が書かれた分厚い本が並んでいる。

入口で紹介状を見せると、老司書が奥の特別閲覧室へと案内してくれた。


「こちらが古代文献室になります。ご用のものがございましたら、お呼びください」


司書が去った後、ウィルが手際よく計画を説明した。

「効率的に調べよう。私は魔法関連の文献、マリアは武具の歴史、リンは古代語の文書、カズキは…」

「俺は何を?」

「お前は【鑑定眼】を使って、重要な文献を見分けてくれ。価値のある情報が載っている本を探すんだ」


カズキは頷いた。そう言えば前回の遺跡でも、書物に対して【鑑定眼】が反応したことがあった。

四人は手分けして文献を探し始めた。カズキは書棚を順に見ていき、【鑑定眼】を使って本を一冊ずつ確認する。ほとんどは通常の歴史書や物語集だったが、奥の棚に置かれた赤い装丁の本に目が留まった。


【七聖剣記:価値不明】

【特性:真実の記録、一部が封印されている】


「あった!」カズキは声を上げた。「こっちに何か見つけた」

仲間たちがすぐに集まってきた。ウィルが本を手に取り、ページをめくる。


「これは…『七聖剣記』。七つの魔剣についての最も詳しい記録だ」


ウィルは慎重に本を開き、古代語で書かれた文章を読み始めた。

「『大魔王の侵攻により、世界は闇に包まれんとしていた。

その時、一人の勇者が立ち上がる。彼の名はフェイト・ストラーデ』…」


フェイト・ストラーデ。その名前を聞いた瞬間、カズキの頭に鋭い痛みが走った。

「『勇者フェイトは七つの聖剣を集め、ついに魔王を封印した。しかし戦いの後、彼は…』」


ウィルは突然読むのを止めた。

「どうしたの?」マリアが尋ねた。

「この先のページが…封印されている」


確かに、次のページからは魔法の光のようなものでページ全体が覆われ、文字が見えなくなっていた。

「読めないの?」

「通常の方法では無理だ。強力な封印魔法がかけられている」


カズキは思い切って【鑑定眼】を使ってみた。すると、かすかに文字が見える。

「少し見えるよ。『勇者は戦いの後、七つの剣の力を用いて自ら王となった。

しかし、彼の統治は次第に…』ここから先はぼやけて読めない」

「王になったの?」リンが驚いた顔をした。「勇者が王様になったなんて話は聞いたことないわ」


ウィルは冷静に言った。「勇者王フェイト・ストラーデ。歴史から消された存在だ」

「消された?どういう意味?」

「何か理由があって、公式の歴史書からは抹消されたんだろう」


カズキは不思議な感覚に襲われた。勇者フェイト。その名前には確かに聞き覚えがある。

それに、最近見る夢の中の自分…黄金の玉座に座る姿…。


「七つの剣について、何か書いてある?」マリアが尋ねた。

ウィルはページをめくり、図解のあるページを指さした。

「ここに書かれている。七つの剣は各属性を司る。

風切りは風、炎帝は火、水月は水、地鳴は土、雷光は雷、氷刃は氷、そして黄昏は…」

「黄昏は?」


「『全ての力を統べる剣』と書かれている。七つの中で最も強力な剣らしい」


マリアは自分の腰の風切りを見つめた。「私が持っているのは七つのうちの一つ。残りの六つはどこにあるんだろう」

「それについても書かれているわ」リンが別のページを指さした。

「『七つの剣は勇者の死後、世界各地に隠された。

 魔王の復活に備え、真の勇者のみが見つけられるよう』…って」


「真の勇者のみ…」


全員の視線がカズキに集まった。彼は居心地悪そうに肩をすくめた。

「まさか俺が勇者だなんて、そんなはずないよ。単なる商人だし…」


その時、図書館の外から騒がしい声が聞こえてきた。何かが起きているようだ。

四人は急いで外に出ると、広場に人だかりができていた。


「何が起きたんだ?」マリアが近くの市民に尋ねた。

「魔物だ!市の東門から魔物の群れが現れたんだ!」

「魔物が王都まで?」リンが驚いた声を上げた。「城壁があるのに?」

「どうやら地下水路から侵入したらしい」ウィルが冷静に分析した。

「街の防衛隊が対応しているが、数が多いようだ」


マリアは決然とした顔になった。「行くわよ。私たちも手伝おう」

「え、俺も?」カズキは不安そうに尋ねた。

「もちろん。鑑定眼で市民や兵士の装備の状態を確認してくれれば助かるわ。壊れた装備を使っていると危険だから」


四人は急いで東門へと向かった。確かに、街の一部が混乱に陥っていた。黒い影のような魔物が路地を走り回り、兵士たちが必死に戦っている。


マリアは風切りを抜き、前に出た。剣を振るうと、風の刃が放たれ、複数の魔物を一度に切り裂いた。

ウィルは魔法の詠唱を始め、炎の弾を次々と放った。リンは負傷した兵士たちの治療に回る。


カズキは後方で【鑑定眼】を使い、兵士たちの装備を確認していった。

「そこの兵士さん!その盾は大きく亀裂が入っています。すぐに交換を!」

「こちらの方、その剣の柄が緩んでいます!」


カズキの警告を受けた兵士たちは急いで装備を交換し、被害を最小限に抑えることができた。

戦いは一時間ほど続き、ようやく魔物は全て倒された。

マリアたちの活躍もあり、犠牲者は最小限に抑えられた。


「ありがとう、冒険者の皆さん」

近衛隊の隊長らしき人物が四人に近づいてきた。立派な鎧に身を包んだ中年の男性だ。


「セリオ隊長…」マリアは声を潜めた。

「マリア…久しぶりだな」

二人の間に緊張が走った。どうやら知り合いらしい。


「王都に戻ってきたとは驚いたぞ」

「一時的なものよ。用事が済んだらすぐに去るわ」

「そうか…」セリオと名乗る隊長は少し残念そうな顔をした。

「久しぶりに会ったからには、一杯やりたいところだが…公務があるからな」

「あなたこそ。随分出世したじゃない」

「ああ、まあな」彼はマリアの腰の剣に気づいた。「それは…古代の魔剣か?どこで手に入れた?」

「古代遺跡で見つけたの」

「そうか…」セリオは意味深な表情を浮かべた。

「気をつけろ、マリア。最近、古代の魔剣を狙う者たちがいる」

「なんですって?」

「詳しくは言えないが、危険な連中だ。特にその剣を持っていると、狙われるかもしれない」


セリオは他の兵士に呼ばれ、それ以上は話せなかった。

「マリア、彼は?」カズキが尋ねた。


「私が騎士団にいた頃の上官よ。…良い人だったわ」

四人は宿へと戻った。その日の調査は魔物の襲撃で中断されたが、重要な情報は得られていた。

七つの魔剣と、歴史から消された勇者王フェイト・ストラーデ。


宿の部屋で一休みしていると、窓の外から大きな音が聞こえた。マリアが素早く窓に駆け寄る。

「何かしら?」

「まだ魔物が残っているのかも」リンが心配そうに言った。


マリアが窓から外を見ると、黒い服を着た複数の人影が宿を取り囲んでいるのが見えた。

「マズいわ…」マリアは風切りを手に取った。「私たちを狙ってるみたい」

「何者?」

「わからないけど、セリオの警告が的中したようね」

部屋のドアがノックされた。全員が緊張した面持ちで見つめる中、ゆっくりとドアが開いた。

そこに立っていたのは、カズキたちが以前会った王立魔法研究所の学者、ルノ・サークフィールドだった。

「お久しぶりです、冒険者の皆さん」老人は穏やかに微笑んだ。


「そして再会しましたね、勇者の転生者よ」


その視線はカズキに向けられていた。

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次回も精一杯書きますので、楽しみにお待ちください!

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