第四話 『商人の腕前』
「ただいま戻りました!」
カズキがフェーレン村に帰ると、グリッジが店先で笑顔で迎えてくれた。
「おお、無事に帰ってきたな!冒険はどうだった?」
「大成功でした!」
カズキは手に持ったバッグを振った。グリッジはすぐに店の中へ案内し、テーブルにバッグの中身を広げさせた。
魔力結晶、古い書物、キラキラ光る金属製の小さな道具類。どれも村では珍しいものばかりだ。
「これは上質な魔力結晶じゃないか!」グリッジは目を輝かせた。「どこで見つけた?」
「遺跡の宝物庫です。【鑑定眼】で価値を確認して選びました」
「明日は月一の市の日だ。これを売れば大儲けだぞ」
カズキは期待に胸を膨らませた。初めての大きな商売になりそうだ。
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翌朝、村の広場には露店が並び、大勢の人で賑わっていた。王都からの商人や旅人たちが集まる市だ。
グリッジはカズキを連れて小さな露店を設置した。
「商売には三つのコツがある」グリッジは教えてくれた。「一つは『見せ方』。全部出さず、少しずつ見せるんだ」
カズキは言われた通り、魔力結晶を一つだけ出し、残りは箱に隠した。
「二つ目は『話術』。品物の特別さを伝える言葉選びが大事だ」
「三つ目は?」
「『仕入れ』さ。売るだけじゃなく、次に売れる品物を見極めて買うこと。それが商人の腕の見せどころだ」
最初のお客は青い服の中年男性だった。
「これは魔力結晶か。光の色からすると純度が高そうだな」
「はい、遺跡で見つけた特上品です。通常の結晶より魔力の持続時間が3倍あります」
カズキの【鑑定眼】によれば、この結晶の価値は5銀貨だった。
「15銀貨になります」
「なんと!」男性は驚いたが、結晶を手に取った。「12銀貨ではどうだ?」
「申し訳ありません。この純度の結晶は滅多にありません。14銀貨が限界です」
「わかった、14銀貨で手を打とう」
取引成立!グリッジがびっくりした顔でカズキを見た。定価の約3倍で売れたのだ。
次々と客が訪れ、カズキは【鑑定眼】で見た価値の2倍以上の価格を提示。値引き交渉の末、ほとんどの場合、価値の2倍程度で売ることができた。
特に古代の魔法書は、30銀貨の価値のものを75銀貨で売るのに成功した。
「お前、天才かもしれんぞ」グリッジは小声で言った。
昼過ぎには、宝物のほとんどが売れ、カズキの手元には6金貨と30銀貨ほどが集まった。
「すごい!ここまで儲かるとは」
「さあ、次は仕入れだ」グリッジは市場の別のエリアへカズキを案内した。「売るだけが商人じゃない。安く買って高く売る。それが商人の真髄だ」
まず絹布の露店へ行った。カズキは【鑑定眼】で見た。
【上質な絹布:価値15銀貨/1メートル】
【特性:通常の絹より3倍丈夫】
「この布、いくらですか?」
「1メートルで20銀貨だ。上質な王都産の絹だぞ」
「10メートルまとめて買うなら、いくらになりますか?」
「18銀貨/メートルにしよう」
カズキは考えた。村なら30銀貨以上で売れるはず。
「10メートルで12銀貨はどうでしょう?」
「冗談だろ!15銀貨が限界だ」
「13銀貨でいかがですか?」
「…わかった、13銀貨/メートルだ」
これで村では倍以上の価格で売れる。同様に香辛料や調味料、職人の小物なども安く仕入れた。全て【鑑定眼】のおかげだ。
夕方、グリッジはカズキの肩をたたいた。
「今日は大成功だ。お前の鑑定眼は商売の天才だよ」
「グリッジさんが教えてくれたからです」
「明日から店の仕入れ部門を任せるよ」
「本当ですか!?」
「ああ。お前が仕入れれば、店の売上は倍になるだろう」
カズキは嬉しさでいっぱいになった。異世界で商人として成功する道が見えてきたのだ。
店に戻ると、マリアが待っていた。
「お帰り、カズキ」
「マリア!どうしたの?」
「新しい冒険の話があるの。また一緒に来てほしいんだけど…」
カズキはグリッジを見た。老商人は頷いた。
「行っておいで。だが3日以内に戻るんだぞ。お前の仕入れた商品が、店の新しい看板になるからな」
「わかりました!」カズキはマリアに向き直った。「行くよ、どんな冒険?」
「前回見つけた『風切り』の剣の伝説を調べることになったの。『七つの魔剣』というのがあって…」
カズキの右手の小指が突然痛んだ。「七つの魔剣…」
なぜかその言葉に懐かしさを感じた。
「詳しくは明日話すわ。今夜はゆっくり休んで」
マリアが去った後、カズキは小指の傷を見つめた。商人として成功し始めた矢先、また不思議な冒険が待っている。七つの魔剣の謎が、自分の過去とどう繋がるのか…。
「商人として生きるか、それとも別の運命があるのか…」
カズキはそう呟きながら、今日稼いだお金を大切にしまった。明日からは仕入れ担当として、そしてもう一つの顔は冒険者として、二つの道を歩むことになる。
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