表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

儚い姫君が忍びの男二人に、何かを頼むお話。

作者: のんちゃ

時は戦国、とある城に。

やんごとなき姫がいた。


かげろうの姫君、と呼ばれる姫は。


ある時、二人の忍びの男を呼び出した。

なにやら、頼みがあるようで……?

世は戦国。



とある国のとある城に。

やんごとなき、姫君がいた。



淡い桃色や水色の着物を纏い。蜻蛉(かげろう)のように線が細く、儚げな。それでいて、目は、しかと、意志を持ち、頼もしげな。



誰からも慈しまれ、愛されるような、その姫は。

かげろうの姫君、と呼ばれていた。



傍らに、小柄な女。お付きの女は、姫君の一歩後ろに控えては、時折、姫に耳打ちしたりしている。通り名を、ほむら。



今日も、姫君の傍らで、ほむらが尋ねる。



「その方らが、腕のいい忍び、か?」



姫君の前に、忍びの男、二人が呼ばれ、傅く。



「へえっ!」

「そうでございやす!」



忍びにしては、顔の濃い男、二人組。



「いっや〜!綺麗な姫さんだ〜っ!」

「かげろうの姫君、なんていうから、どんなマボロシかと思ったら。線の細い、羽虫の方かあ。もっと良い例えがあるだろうに!」



さらに、忍びにしては、テンションの高い男達。わあっと盛り上がる。



「ふふ。儚げに空を舞う、かげろうのよう、と、いう事らしいですよ?民は皆、わたくしをそう呼んで、愛でてくれるのです」



ぽっと、頬を染める姫君。

わわっと、口元に手を当て、息を呑む忍び二人。



姫君のそばのほむらが、口を開く。

「腕の良いと聞く其方達を見込んで、頼みがある」

ほむらの言葉に続いて、姫君が玉のような声で、二人に告げた。



「……とある、香を。わたくしのもとに、届けてほしいのです」



「香、ですかい?」

「わたくしが必要としている、大切な、ものなのです」



ふふ、と笑う様子も、小さな花が綻んだような、ささやかな可憐さと儚さを秘めており。見るもの全ての顔が、自然と綻んでしまうような。



釣られて、二人の忍びも笑ってしまう。

「ほほ、それはそれは」

「まあまあ…はは」



「見つけだし、わたくしのもとへ、届けてくださらない?礼は弾みます」



「まあ、こんな美人が、礼を弾むというならば」

「断る理由も、ねえだわさあ〜〜」



浮かれ調子の忍び二人に。ほむらがさっと、紙を目の前に置く。



「細かいことは、仔細こちらに。では、頼んだぞ」



「「はは〜っ!!」」




素早く姿を消す忍び二人に。

「……随分と調子のいい者どもですが。良かったのですか」

「いいのです。それで、……いいのです」

「……さようでございますね」



ほほほ、という、軽やかな笑い声が、その場に響いていた。







紆余曲折、なんやかんや、えんやこらっとあった中。

忍びの男二人は、頼まれた香を、見つけだし。ちょいと拝借………、つまり、盗み出した。



ほうほうの体で逃げ、かげろうの姫君の元へと、たどり着いた、忍び二人。




城の庭に傅き。やってきたのは、姫君とほむら。



「まあ!素晴らしいわ!」



ぼろぼろの忍び二人が、目の前に置いた、幻の香に。姫君の顔が、ぱあっと華やぐ。




「よくぞ、持ってきてくださいました」




姫君の言葉に、よれよれと忍びの男達が答える。



「まあったく、苦労しましたよ。あの言い方だと、てっきり元はお姫さんのものって言い方だったのに。違うんだもん」

「盗んでくんの、大変だったんすよお?」




「あら、違いませんよ?」

「ぁあ?」

「わたくしの元に来るべきものだったのだから。何も、違いませんのよ?」



「あんた…。何言って、」

呆れるように言った、忍びの男の言葉を遮り。



シャラン。

音と共に、辺りの気配が変わる。




「この香のお陰で。わたくしは、もっと。皆に慕われ、皆を夢中にさせるのです」





「「……えっ?」」









「さあ、わたくしのかげろうを、辺りに放ちましょう?」






ふわり。姫君が腕を柔らかく丸く、空を包むように動かすと。



辺りに霞がかかる。



「……まさか」

「これは、……妖術?!」




ふっ、と斜めに俯いた、姫君の口元は。

今までとは違う、妖しい笑み、を浮かべ。




……あは、あははははははっ!!!




突然の甲高い笑い声と共に、姫君に影が差す。いつの間にか、ほむらが近くに、篝火を用意していた。



炎に照らされ、陰影のはっきりした姫君の顔は、儚さよりも、妖しさが増す。





「…わたくしのかげろうは。炎のそば、ゆらめく気配。ゆらゆら揺れて、……夢を、運ぶ」






「……夢ぇ?!」

明らかに変わった気配に、慄きつつ、怪訝な顔をする忍びの男。

「一体、突然、夢がなんだって、」




「ばっか、てめえ!まともに聞くな、術に嵌まるぞ!」

焦った、もうひとりの忍びの男が遮る。

「言葉だけじゃねえ、あの、篝火だ、さっきの香だけじゃねえ、他にも、薬やらなんやら入ってんだろ、まともにくらったら、酔うだけじゃ済まねえぞ!」



はあっ!と気づき、警戒する忍び二人。






「…暑い日の、遠くにゆらめく、まぼろし。熱さと冷たさとの境に。ゆらめく気配は、わたくしのかげろう。

ああ、嬉しい。この香で、わたくしのかげろうは、より、素晴らしくなりました」




歌うように、恍惚として言う姫君。

傍らのほむらも、にやりとして告げる。

「姫様の陽炎(かげろう)の術、逃れられるものか」




忍び二人は、なすすべも無い、かと思われたが。




「……忍法、竜巻囲い!」

「なんだよそれ!」

「独自で編み出したんだよ!!」



小さなつむじ風が起きる。つむじ風はすぐに大きさを増し、そのうち、あっという間に忍び二人を包んだ。




「……おや。まあ」

口元に手を当て、あくまでも淑やかに驚く、姫君。




「へへ〜んだ」

「余裕ですね、」

「術とわかれば、防げばこっちのもんさ!」

「そうでしょうか………?」



首を傾げて、姫君が言う。




「民はもう既に。わたくしの、夢の中ですよ?」


「「なにっ?!?!」」





庭の中、そして外。

気づくと多くの、この国の民が。ゆらめく気配に酔い、集まって来ていた。



姫君が操る妖術、陽炎に。

民は惑い、操られ。ふらふらと、集まる。




「畜生っ!道理で、この国に入ってから。かげろうの姫君、の事を訊いても、城への道を案内されるばかり、他には碌に、調べがつかなかった訳だ!」

「既に、国中が姫の術の内なら。噂も何も、あったもんじゃねえなっ!」

「ああ、そうだ!」




風で必死に防ぎながら、忍び達は言葉を交わす。



「まあったく、とんだ姫君だなあっ!」

「ああ!妖術に引っ張られないようにするだけで、やっとだ!!」





「…流石に、忍びには妖術の効きが悪いですね、姫様」

「ええ。香探しの役には立ちましたが、思わぬ所で足枷になりました」




姫君は、するりと歩いて、民の前に立つ。



「…わたくしの喜びが、民の喜び。

わたくしの幸せが、民の幸せ。

今日、わたくしは、この香が手に入って、嬉しいの。

お陰で、皆も、幸せでしょう?」




ふふ、と笑って言う姫君に。



「無茶苦茶だなあ、おい!」

忍びの男はつむじ風の中から、大声で言った。




そんな忍びにお構いなく。

姫君は歌い出し、そして、舞を舞う。





「民よ踊れ、わたくしの、陽炎の夢で


踊れ、そして、剣を持て


わたくしの為に、踊り、そして戦え


民は皆、わたくしが大好きなのだから」




歌に誘われ、舞に促されるように。

民は、気づくと武器を持ち。

夢見心地で、隣国へと進軍を始めていた。




「ばっかやろおー!早く止めねえと!おし、行くぞ!」

「行くって、どうやって止めんだよお!」

「走りながら考えるっ!」

「そんなあ〜〜〜っ!」



民の暴走を止めるため。

二人の忍びは、無謀な戦いへと、駆け出したのであった。



二人の後ろには、一陣の風が。走る二人の背を押すように、鋭く、たなびいていたのであった。

はい!超とんちき時代物でした!!!

ちょっと、キャラや設定、シチュエーションが、いつか使えそうだな、な短編!

読んでいただき、ありがとうございました!


モデルというか、演じてほしい、元になった方は、居ます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ