報告書9-帰還
戦闘から離脱したシンは追手を警戒しながら撤退したが、あの青年達が追いかけてくる気配はない。彼らにこちらを追う意思は無いのだろうと判断したシンは、目的地を変更し歩みを進める。目的の場所に来たシンは瓦礫で閉じかけた出入り口を器用にくぐる。そのまま部屋の奥にあるパネルを操作し、壁と一体となっていた出口を開ける。そこを通り、暗い通路の中をライトの明りを頼りに進んでいく。
10分程進むと目の前に外の景色が見えて来た。
そのまま建物の外に出たシンは、真っ直ぐに草むらの中を進んでいく。すると遠くに保護役員のキャンプ地が見えて来た。シンはヴィエラを抱え直し、急いでキャンプ地へ向かう。警備兵だろう人がキャンプ地から出て来たのが見え、シンは声をあげた。
「すいませ~ん、ちょっとここの責任者の人呼んできて下さい!それと救護テントありますよね。案内お願いします!!」
警備員は暗闇からやって来たシンに驚いていたが、直ぐに様子のおかしいヴィエラに気づき警戒を解く。
「おい!至急シュピッツェを救護テントまで来るよう伝えに行ってくれ!それと救護員に急患だと連絡を!救護テントはこちらです」
キャンプ地内にいるのだろう仲間に責任者を呼びに行ってもらうよう頼んだ後、警備員はシンの足元をライトで照らしながら案内する。
救護テントはキャンプの中央にある。入口を警備員に開けてもらうと連絡を受けた救護員が中で既に待機していた。
「ここの隊のツヴァイなんだが、どうも様子がおかしいんだ。見てやってくれ」
そう言ってテント内に設置してあるベットに抱えていたヴィエラを横向きに寝かせる。彼女は今は遺跡にいた時のようではなく、落ち着いているように見えるが、虚ろな表情をし顔色は真っ青である。
「ヴィエラ、しっかりして!」
救護員の1人は知り合いだったのだろう、彼女の名前を呼ぶが反応は無い。
「落ち着け、発作のせいだ。君は彼の傷の手当てを。誰かタオルと湯を持ってきて下さい」
知り合いのこの状態に動揺した救護員に、上司なのであろう救護員が叱咤する。
叱咤された救護員は動揺から立ち直り、名残惜しそうにヴィエラから離れた後、シンに近づいた。
「こちらで手当てします」
シンを椅子に座らせた後、彼に上着を脱いでもらい手当てを始める。無言で手当てを受けていると、外が騒がしくなっていることに気付いた。
何かあったのだろうかと警戒していると、テントの入口が開き、人が入って来た。
「何があった」
入って来た人物はシンを見つけると彼のもとに向かい、彼を見下ろして言った。言われたシンは、その人物の言葉に苦笑した。
「ねぎらいの言葉は無いのかね?君たちが探していた可愛い役員を頑張って連れ帰って来たんだけど」
「彼女が無事に帰って来ていたら言ってただろうな。で、何があった」
「遺跡を調査していたら不審な二人組に遭遇。戦闘になり、逃げて来た。一応施設に残っていたデータを取り出せるだけ取り出してきた。修復を頼む」
手当てが終わり救護員が離れた後、上着から記憶媒体を取り出して渡す。
「奴らはあの遺跡にある何かを取りに来たようだった。あそこには何かある」
「そうだろうな。でなきゃ、こんなに大きな隊を作っての調査なんてしないし、お前も来ないだろう」
「あれ?ばれてました?」
呆れたように言われてシンは笑う。
「彼女を無事に保護してくれてありがとう。お疲れ様。君用にテントを張らせているからそこで休んでくれ。外に待機させている者に案内させる」
シンの反応を見て溜息1つ吐いた後、用件だけ伝えて彼に救護テントから出るよう促す。だが、シンは立ち上がろうとしない。
「さっきあの救護員が発作と言っていたが、彼女は何故あんな風に?」
ヴィエラを見て尋ねると、言いにくそうにしていたが、それでもシンがじっと相手を見ていると諦めて口を開いた。
「詳しい事を知っているわけではないが、どうも小さい頃目の前で両親を亡くしたらしい。他人の血を見たり体に付着したりするとあのようになってしまう」
事情を聞いた後、シンはヴィエラを見たまま沈黙した。
じっとヴィエラの様子を見ていたシンは、彼女から視線を外し救護テントを出た。
「シン殿ですね、テントまでご案内いたします」
「ああ、宜しく頼む」
テントを出ると、出入り口の両側にある明り近くに立っていた青年に声を掛けられた。どこか疲れた笑みを浮かべてシンは青年に道案内を頼む。
歩き出した青年に続く前に再度救護テントを振り返り、直ぐにはぐれないよう青年の後を歩き始めた。