報告書5-データコピー中の出来事(1)
ヴィエラに宣言したとおりに、シンは大人しく彼女の作業の手伝いを始めた。最初は疑い大半で彼の行動に注意していたヴィエラも、自然と自分の作業に集中し始めた。
とりあえず残っているデータを保存するために、持ってきていた記録媒体に移す作業を行う。しかし、断片的にしか残っていないといってもその量は膨大であり、全てをそれに移すことは不可能であった。特に破損がひどい情報を中心に記録媒体へ移していく。
移すデータを選別し、ダウンロードを開始する。
「ふう、後はいったん戻らないと」
無事に作業が終わりそうだと安心したとき、シンが自分たちが入ってきた扉の方をじっと見つめていることに気がついた。
「どうしたの?」
不思議に思ったヴィエラが問う。しかし、シンはヴィエラの方を見ずに厳しい眼差しで暗い扉の向こうを見続ける。
「誰か、こちらに向かってきているみたいだ」
それがどうかしたのだろうかとヴィエラは首を傾げた。彼女はこちらに向かっている人物が仲間の保護役員だと思っているのでシンが警戒している意味がわからないのだ。しかし、彼には自分の仲間が外にいることを伝えたはずだ。
そこで彼女は一つの可能性を思い出した。
最近、ロストテクノロジーに関する事件が数件起こっていた。保護役員が収集した遺物や遺跡に残っていた遺物を奪われた等の事件である。
もしかしたら、今ここへと向かっているのもその犯人なのでは。
ヴィエラもとりあえずこちらに向かっているという人物を警戒し、護身用の携帯睡眠銃を構える。本来これは獣用なのだが、一応人にもそれなりに害はないらしい。但し、目覚めてから約半日ほど副作用のため痺れて動けないらしい。笑顔でそう告げた研究員を思い出し、悪寒が背中を滑り落ちて行った。…使う状況にならないことを祈ろう。
「下がっていろ」
既に戦闘態勢に入っているのか、シンからピリピリとした雰囲気を感じる。
今の時代大変貴重な遺産を巡り、ならず者や時にはヤバイ組織とごた~いめ~んする場合も少なからずある。その場合大抵一緒に来ている護衛の兵が前に出てヴィエラのような保護役員は盾の中で身を縮こませている。したがって、戦闘経験など皆無なのである。一応護身術を習ってはいるが、それはあくまでも護身であり戦闘向けではないのだ。
なのでヴィエラは大人しくシンの言うことを聞いて数歩下がる。
シンの目線が向かう先をヴィエラも追い、目を凝らす。機械音に交じって高い足音が反響して聞こえてくる。ちらりとデータコピーの進行状況を確認するが、まだ3分の1程度しか進んでいない。こちらに向かっている人物が来る前に終わってくれという願いと、どうか自分と同じ保護役員でありますようにという願いがヴィエラの中で駆け巡る。