報告書4‐トレジャーハンター
勝手に触ろうとするシンを抑え、ヴィエラは手袋を着け作業を開始した。触る前に専門のカメラで機械の状態を記録してから、機械が動くかどうか確認する為に機械に触る。
「動くかな」
これまでの道のりで、この施設に動力が残っているとは思えないが、試してみない事には分からない。少ない望みを持って、主電源らしきボタンを押す。
「やっぱりつかないか」
押して少し待っても機械は動かぬモノのままであった。思わず緊張で強張った身体から力を抜く。
「ねえ、これってもしかしてサブの動力起動スイッチじゃない?」
部屋の隅を見ていたシンが何やら見つけたらしい。その声に反応したヴィエラが止める前に、シンはスイッチをポチリと押してしまった。
ブンッという重たい音が鳴り、それまで全く反応が無かったモノが息を吹き返した。
「動いた・・・」
ヴィエラは息を吹き返した機械に目を奪われた。光輝く彼らは、何と美しいのだろう。
視線を感じたヴィエラがシンの方に目線を向けると、彼は笑っていた。
「何?」
さっきの嬉しそうな表情から一変し、不機嫌な声音で問う。
「ん?何って何?」
問い返してきた彼にヴィエラは一瞬顔を歪めたが、何も言わず作業を開始した。真剣な表情で作業に当たるヴィエラを見ながら、シンは静かに佇むだけだった。
取り敢えず、ここの施設の地図の検索をかけるが、データが壊れかけている為か、うまく動いてくれない。
「ごめんね。早く本体と合流して保護してもらうから」
機械をゆっくりと優しく撫でるその仕草は、慈愛に満ちていた。
「うーん、流石にデータが古くなってところどころ破損してるな」
何時の間にかヴィエラの直ぐ側にシンが来ていた。その事に気付かなかったヴィエラは驚く。
「ひぎゃぁあ!」
彼女の悲鳴にシンは目を丸くして驚いた。
「え?!何?」
何故彼女が悲鳴を上げたのか分からないシンは、慌てる。
「い、いきなり近づかないでよ!…びっくりしたぁ。てか、勝手に動くなって言わなかった?」
不快そうな表情をする彼女に、敵意が無い事を表すように、シンは両手を頭の位置まで持ち上げる。
「大丈夫、君たちの不利益となるような事はしないよ。俺は心優しい遺物を大事にする善良なトレジャーハンターだから」
彼はそう宣言するが、ヴィエラは未だ疑り深く見つめる。
「あ、信じてないな!あのね、トレジャーハンターで、俺はそこらの泥棒と違うの!さっきも言ったでしょ?大戦以前はトレジャーハンターも唯の盗掘者だけと、委員会が出来てから俺らはきちんと認められた遺物保護役員だ。唯ちょっと過激なのが、多いけど」
そうなのである。トレジャーハンターはヴィエラが所属している委員会の一員に含まれているのだ。 一応、ではあるが。
「でも、貴方達は泥棒と変わらない。遺跡を壊し、強引に遺物を集める貴方達は」
彼らの行動は過激である。その役割は遺物を回収するのを目的とし、その際に遺構を破壊してしまう事も多々あるのである。その為、遺跡を保存することを仕事としている保護役員との対立が絶えない。一方的に保護役員の方が彼らに噛みついているのがもっぱらなのだが。
「ここで君たちと争うのは得策じゃない。ここはお互い協力した方が良いんじゃないかな?」
じっと見つめながらヴィエラは考える。確かに一人より二人の方が効率も良い。
背に腹は代えられない、と彼女は決断した。
「分かった、協力をお願いするわ。但し、遺物や遺構を破壊しようものなら容赦しないから」
きつく睨みつけると、シンは笑顔で肯いた。
「ああ、十分気をつけるよ」