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報告書2‐不機嫌な少女

 その後、ヴィエラにこってり怒られた青年に、彼女は持っているすべての遺産を出すことを要求した。

「これで全部だよ」

 そういう青年の前は、遺産によって小さい山が出来上がっていた。

「どこにこんなに持っていたのよ、あんた」

「え?見ていた通りだよ?」

 きょとんと自分を見つる彼を見て、ただでさえほとんど残っていなかった気力をごっそり何かに持っていかれた気がした。

ヴィエラは、深いため息をつく。

「まあ、『どこに持っていたか』なんて問題じゃないわね。『どこから入手したのか』が問題だわ。…私でさえこんなにたくさんの遺産見たことないのに」

「それは俺が凄腕のトレジャーハンターだからだよ」

 自信満々、意気揚々、俺に不可能はないぜ!とでもいいそうな良い笑顔を浮かべた。

 少しの間。

 再びブチ切れそうになったヴィエラは己に怒りを鎮めろと言い聞かせながら自分の役割を思い出す。

「貴方がトレジャーハンターであっても、これほどの遺物を保持するのは法律に反するわ。これらは私が引き取ります」

 冷静になろうと己を抑えているヴィエラをにやにや笑いながら観察している青年は口を開く。

「それはいいけど、これだけの遺産ここから運び出すのは君だけじゃ無理じゃないかな」

 小馬鹿にしたようにヴィエラは青年を鼻で笑う。

「はっ、残念でした。ここに調査に来ているのは私だけじゃないの。外のキャンプ地に中隊が待機しているのよ」

「じゃあ、なんで君は一人でここにいるのかな」

 にこやかに聞いてくる青年の言葉に、ヴィエラはグッと言葉が詰まった。

「それに、今ここで俺が君をどうにかして黙らせてとんずらしてしまう事も出来る。君がここで、敵に対して自分が保護役員である事をバラさない方が、仕事…やりやすかったと思うよ?」

 そう告げる彼の表情は、どこまでも爽やかでにこやかであった。気持ち悪いほどに。

「ご親切に忠告ありがとうございます」

 無償所になったヴィエラはお礼を言う。それのどこが可笑しかったのか、青年は笑った。

「ははっ、そんなに拗ねないで。でも驚いた。君は保護役員なんだね」

 国家機関である古代遺跡及び遺産保護委員会の役人になる為には、非常に難しい試験を受けなければならない。その為、大抵二十代後半でようやくその資格を取る人がほとんどだ。どう見ても十代後半に見えるヴィエラの様な少女が就ける役職ではない。

「まあ、それは置いといて。せっかく壁に穴開けて道作ったんだから先に進まない?このままずっとここにいるわけにもいかないし。大丈夫、遺産はちゃんと君たちに渡すから」

 まだ青年に対して警戒しているヴィエラは素直に彼の提案を受け入れられない。

 確かに彼が開けた壁の先に通路がある。

「そうね、待っているだけじゃ始まらないし。…その前にこの大量の遺産、どうしよう」

「置いていこうか。しまうのも面倒だし」

 さらりと言う持ち主の言葉に、ヴィエラは驚く。遺産を、しかもほとんどがレベルC以上の物をなんの置いていこうと言う人はいないだろう。何故なら、今の技術ではレベルCどころかレベルDの遺産さえ満足に作る事が出来ない。つまり、これらの遺産は消費される一方だ。だが、目の前の青年はそれらを置いていこうと言うのである。しかも理由が面倒だからなんて。ヴィエラは目眩がした。

「後で君の仲間に取りに来てもらうから大丈夫だよ」

 彼女の心中を推し量ったのか、青年が告げる。

「そういえばまだ名乗って無かったね。俺はシン。よろしく」

 ニコニコと笑っている青年に、名乗る気がなかったヴィエラだが、自分が名乗るのを待っているのだろう、いっこうに青年は動こうとしない。

 仕方なく、ヴィエラは自己紹介をする。

「ヴィエラ、ヴィエラ・リーニよ」

「よろしくヴィエラ。そんじゃ、行きますか」

 先程爆破して開けた穴に向けて歩きだしたシンを見ながら、ヴィエラは溜息を吐いた。彼は自分の事をトレジャーハンターだと言った。ならば、こうも簡単に遺産を手放すだろうか。それとも、彼が特殊なのか。考えてもらちが明かない。とりあえずヴィエラは今の手持ちの物を使い、置いていく遺産が他の保護役員以外の人に持っていかれないよう細工を施し、シンのいる方へ向かった。

 ヴィエラが行くと、シンが崩れた瓦礫を踏み越えながら先に続いている通路へと入ったところだった。彼に続いてヴィエラも瓦礫を踏み越え、通路に入る。周りを見渡してみると、どうやら先程居た施設とは建設に使われているものが違っているのがはっきりとわかる。先程居た施設はレンガを主に使っていたが、ここは一面冷たい金属の様なものでコーティングされている。この差に、ヴィエラは違和感を覚えた。

「ここ、何かの研究所かしら」

 以前調査に行った遺跡がここと同じような作りをしており、そこは研究施設だと、調査の結果判明した。なので、今回もそうだと思ったのだ。

「研究所は研究所でも、ここはちょっときな臭いとこだったのかも」

 そう呟いて右手に続いている通路の先に、シンは進んだ。ヴィエラは彼の後に着いて行くが、彼の言葉によってこの通路に入ったときに感じた違和感の理由が分かった。

「あ、ここ気をつけてね」

 シンが注意を促したところを見てみると、ヴィエラぐらいの体格の人がすっぽり入ってしまうぐらいの穴が開いていた。彼が注意していなければ、自分の考えをまとめるために集中していたヴィエラは、その穴にはまっていただろう。その事に気付き、ヴィエラは肝を冷やした。2、3歩ずれて穴を避ける。

 取り合えず、考える前に周囲に注意して先へ進まなければ自分の身が危ない。数時間前に仕掛けにはまってしまったのを思い出して、深い溜息を吐いた。

「あ、君疲れた?俺と違って何時間も歩いたみたいだし、疲れたまってるよねぇ。少し休もうか?」

 シンはヴィエラの溜息の理由を疲れと判断したため、気を使ってそう言ったのだろうが、その気遣いが逆にヴィエラには不愉快だった。

「ご心配なく。先程、貴方に出会う前、十分に休息をとりましたから、疲れていません」

 半分は強がりだが、人に心配されるほど疲れを感じているわけでもない。

 それよりも、ヴィエラは早く仲間と合流したかった。






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